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あまい指先


ピピピッ

機械音が聞え、ベッドの中で

もそもそと脇に挟んでいた体温計を抜き出す。
表示されていた、38.6℃という数値。
朝から頭が痛いと思っていたら、やっぱり熱があった。
寒気もするし、体全体がダルくて起き上がる気がしない。
幸いなことに、今日は土曜日で仕事もない。
1日大人しく寝ていよう、と頭から布団を被った。


〜〜♪

「………」

布団を被ったタイミングで鳴り出した携帯。
この音は着信だ。
…頭痛いから出たくない。
だが仕方なく、サイドテーブルに手を伸ばして携帯をひっ掴み、画面の確認もせずに通話ボタンを押した。


「はい…」
「あ、美緒おはよう、今日って暇?」
「…はよ。悪いけど、具合悪いから、他あたってくれる?」

電話をかけてきたのは、彼氏の総司。
明るいいつもの口調で尋ねてくるが、今はその声が頭に響いてきて辛い。

「は?風邪?」
「うん…だから、ごめん」
「…なんでもっと早く言わないの」」
「え?」
「今から美緒の家行くから。待ってて」
「え、ちょっと…総司?」聞こえてくるのは、無機質な機会音。
総司、なんか怒ってたんだけど…なんなの?
てか、今から来るって…。

「…あ、ダメだ」

考えようにも、頭痛がハンパじゃない。
いいや、寝てしまおう。
私は携帯の電源を切り、もう一度布団を被った。
目を閉じ、すぐに襲ってくる眠気に身を委ねた。



***




ガチャリ

美緒から貰った合鍵を使い、彼女の部屋の玄関を開ける。
焦りぎみに靴を脱ぎ、美緒の寝室へ急ぐ。
そっと扉を開けて、ベッドへ近付いた。
頭まですっぽりと覆っていた布団を少し捲れば、頬をほんのりと赤く染め、浅い呼吸をする美緒の姿があった。
閉じた目元には、涙がうっすらと溜まっていて、辛いのだろうか、眉が八の字に垂れていた。
強がりで意地っ張りな彼女は、いつだって僕を頼ったりはしない。
自分が弱っているこんな時ですら、僕に助けを求めない。

「まったく…少しは頼ればいいのに…」

僕は小さく呟き、彼女の目元を優しく拭った。




***






「……っん…」

そっと目を開ける。
時計を見上げれば私が寝てから二時間が経過していたが、体の調子は悪いままだ。
起き上がるのも億劫でまた目を閉じた時、ふんわりと美味しそうな匂いが鼻を掠めた。
不思議に思っていれば、寝室の扉が開いて総司がひょこっと顔を出した。

「あ、起きた?」
「総司…?どうしたの?」
「どうしたのって…美緒が風邪引いたっていうから、甲斐甲斐しく看病しにきたんじゃない」

そう言って、手に持っていたお椀をサイドテーブルに置き、総司はベッドに腰かけた。
いつの間にか、おでこには冷えピタが貼られていた。

「それ、何?」
「お粥。冷蔵庫の中の物、勝手に借りたよ」
「え…総司が作ったの?」
「そうだけど…何その意外そうな顔」

拗ねたような言い方に少し笑ってしまったけど、総司が料理をするところなんて想像できなかったから、ちょっと驚いた。
突然、すっと総司の手が伸びてきて、私の頬に触れて、すぐに顔をしかめる。
総司の冷たい手が、熱を持つ体には丁度よかった。

「…まだ熱下がってないみたいだね。食欲はある?」
「ない…」「だろうね。だけどちょっとは食べなきゃダメ。起きれる?」
「ん…」

仕方なくベッドの上で上体を起こす。
総司はお椀を持ち、レンゲでお粥を掬う。
自分の口元まで持っていき、冷ますように数回息を吹き掛けた後、私に差し出した。

「はい、あーん」
「…自分で食べれるよ」
「だめ。早く口開けないと、溢しちゃうよ?」
「……あ、あーん…」

少し強がってみたものの、いつものように総司を突っぱねる元気はなく、大人しく口を開けた。
お粥は温かくてとてもおいしかった。
だけど、やっぱり食欲はなく、2、3口食べてから、首を振った。

「もうダメ?」
「無理…吐く」
「仕方ないなぁ。ほら、寝る前に薬飲んで」
「ん…」

総司から手渡された解熱剤を飲み、寝転がった。




***




「総司ー、」

美緒が薬を飲んでいる間にお粥を片付け、また寝室に戻ってきた。
ベッドに腰かけると、美緒が弱々しく僕を呼ぶ。

「んー?」

返事をしながら美緒を見れば、掛け布団で鼻まで隠したまま、上目遣いで僕を見つめていた。

「頭、撫でてくれない…?」

潤んだ瞳で、普段絶対に言わないようなことを言われ、柄にもなく心臓が跳ねる。
平静を装いながら、そっと美緒の頭に手を乗せ、ゆっくりと撫でる。

「美緒、弱ってるといつもの100倍可愛いね」
「…可愛くないし」
「素直じゃないなぁ…ま、そこがいいんだけど」
「うるさい…」

小さく悪態をつきながらも、美緒の目はトロンとうつろになってくる。
あぁ、さっき渡した解熱剤、飲むと眠くなるんだっけ。

「美緒、眠いでしょ?寝ていいよ」
「んー…やだ」
「え、眠いんじゃないの?」
「そーじが、どっか、行っちゃう…から」

舌足らずな言葉でそんな可愛いことを言うから、僕はつい笑ってしまった。
ほんと、いつもの美緒からは想像つかないよ。

「あはは…僕はどこにも行かないから、安心して寝なよ」
「ほんと…?」
「ほんと、ほんと。ずっと側にいてあげるから」
「うん、ありがとー…」

そう言って微笑み、目を閉じた美緒。
僕は彼女が寝つくまで、しばらく頭を撫でていた。やがて、静かな寝息が聞こえてきた頃、頭から手を離し、美緒の寝顔を見つめていた。


「…これだから目を離せないんだよね。」

美緒の頬にキスをして、僕も彼女の隣に寝転んだ。
だって…ずっと側にいてあげる、って言ったからね。












あまい指先


(ん…あれ、総司?)
(起きた?)
(何で隣で寝てるの?)
(美緒が寂しがるかなーって思って)
(さ、寂しくなんかないって!)
(さっきはあんなに可愛かったのになぁ)
(う、ううるさいっ!)



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