「カット!…はいOKでーす!」
「休憩入りまーす」

なんとかセリフも間違えることなくOKが出た。
安堵にホッと息を吐き出せば、ここ数週間で聞き慣れた主演俳優の声がした。

「おい那月!お前ここで何してんだよ!」
「翔ちゃんのドラマ初主演を応援しにきたんですよ〜」
「応援、ってまさか…」
「はい!差し入れ作ってきました!」
「やっぱりかあああーーーー!!」

ニコニコと無邪気な笑顔を見せて走り回るのは、今をときめくアイドルST☆RISHの四ノ宮那月さん。
その那月さんに現在進行形で追われているのはこのドラマの主演を努める、同じくST☆RISHの来栖翔さん。
じゃれ合う二人(翔さんは本気だが)を離れたところから見つめる私は、二人と同じアイドルだが雲泥の差が彼らにはある。
この学園ドラマだって、数いる学生の一人でしかない私。
そんな私が、たった数週間で、ほとんど話したこともないのに、人気アイドルの翔さんに恋しているだなんて、身の程知らずにもほどがある。
私と翔さんの間には、越えられないほど大きくて高い壁が 立ちそびえ、きっとそれを越えることはあってはならないんだ。
もしかしたらこうして、見つめることすら許されないのかもしれない。

「待ってください翔ちゃん!元気が出るものいっぱい入れたんですよ〜?」
「素材がよくてもお前の調理が全て台無しにすんだよ!つーか狭いスタジオん中で走んな!」

同じ世界、同じ場所に立っているのに、どうしてかな…翔さんがすごく遠い。
私がただ翔さんを見つめるだけ、翔さんの視界にきっと私は映らない。
好きになってはいけなかったことに今さら気付くなんて、私は大ばかだ。






見つめる
(世界を跨げない)





2012.12.17





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -