「おう、今日の新聞だよ」
「ありがとう」


店のカウンターに置かれた新聞を手に取り、代金を支払った。
テーブルを拭いていた手を止め、新聞を開く。
記事の大半は海に出た海賊と海軍の話題で、特に目を引くようなものはないのだが、日課になってしまっているし、世界の情勢を知ることも無駄にはならない。
読み進めていると、新聞の間から何かがひらりと床に落ちた。
何度も見慣れた手配書だと思われる茶色いそれを拾い上げ、何気なく見れば私は目を見開いた。


「ロー…」


そこには、目の下に盛大な隈を携え、特徴的な白いもこもこの帽子を被った、幼馴染の姿があった。
最後に会ったのは何年前だろうか、私が引っ越す前だから、もう10年ほど前になるのかな。
久しぶりに見る彼は、記憶の中の少年よりも随分と大人びて、あの頃の面影をどこか残しつつも立派な青年となっていた。
あれから一度も消息なんて聞いたことはなかったが、まさかこんな形で彼をまた見ることになろうとは、文字通り夢にも思わなかった。
海賊だなんて…幼い頃はその片鱗すら見られなくて、いつも分厚い医学書片手に医者になる豪語していたはずだが。
これじゃローの方が大分不健康そうだ。


「ふふっ…」


そう思ったら何だか笑えてきて、私は笑い声を惜しまず笑った。
今どこにいるのかなんてわからないけれど、こうして姿を見ることができてよかったと思う。
それに、これで毎日新聞を読む理由ができたし。


「ロー、早く帰ってこないかな…」


現金なもので、心の深くに置いておいた昔の記憶を掘り返せば、その中心人物に会いたくなるのは当然のことで。
私は彼の早い帰郷を願わずにはいられなかった。
ローがこっちに帰ってきたら真っ先に出迎えに行っておかえり、って言って驚かせてあげよう。
それで昔の話をいっぱいして、ローの冒険譚を目一杯聞かせてもらおう。

私はローの初めての手配書を店の壁に真っ直ぐに貼った。




懐かしむ
(想い出越しの恋心)




2012.12.13





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -