「敦、離して?」
「まだだめ」
「えー」
中学の頃から付き合っていた私たちは、別々の高校へと進学した。
遠距離となってしまった私達だけど、気持ちに変わりなんかあるわけなく、週末はどちらかが会いに行くようになっていた。
今日は敦が私の家へと来てくれたのだが、自室に招き入れた直後、背後から抱き締められた。
いくら頼んでも離してもらえず、それどころか私の首元に後ろから顔を埋めたまま、動く気配がない。
こうなったらテコでも動かないのは分かっているし、好きなようにさせてやろうと諦めて、座り込んだ敦に体を預けた。
「敦」
楽なように足を崩しながら敦に声をかける。
敦の肩がピクリと跳ねたことには気付かないふりをした。
「だいじょーぶ。私はどこにも行かないよ」
腕を持ち上げて敦の頭を優しく撫でる。
腹の前で交差された敦の腕に力がこもったのがわかった。
行動の一つ一つが子供っぽくて、考えてることが言動に出るからすぐわかる。
今、何を思っていて、何て言って欲しいのかも。
「敦だけが大好きだよ」
撫でる手を止めぬまま言えば、コクリと小さく頷いた敦が、「俺も」と呟いた。
抱き締める
(寂しさを埋める)