逃げ場はない、とはまさに今の状態を指す言葉だと、脳内の片隅で思った。


「いや…冗談キツいですって…」
「んー?わい冗談苦手やからなぁ、マジやでって…何回言わすねん」
「冗談じゃないと困ります!」
「本気や、ほ・ん・き」

背後には壁、目の前にはいい笑顔の今吉先輩。
まるで閉じ込めるように体の左右に置かれた先輩の腕。
もう1度言う、逃げ場がないとはこのことだ。
後退りをしたくても背中はべったりと壁についてしまっていて、これ以上後退することは出来ない。
声をあげて助けを呼ぼうにも、ここは屋上へ続く階段の踊り場。
休み時間ならまだしも、今は授業中で誰かに気付いてもらえる可能性は限りなく低い。
これはもう、絶体絶命と呼んでもいいだろう。

「相変わらず素直やないな〜」
「あたしは素直ですよ!超素直です!」
「嘘ついたらアカンで。今嫌がってんのも照れ隠しやろ?」
「先輩の勘違いですって!てか、近くなってません!?」

ちょっとずつ近付いてくる先輩に、冷や汗を流しながら必死で抵抗策を考える。
バスケ部の主将に力で敵うはずなんかないし、先ほど言ったように逃げ場はない。
そんなことお構いなしに、自身の顔を近づけてくる今吉先輩。
どうしようかと考え最後の抵抗に、自由な手で自分の口を塞いだ。

「…手、どけて」
「…イヤです」
「ルイちゃん、わしの言うこと聞かなどうなるか…忘れたんやないやろなぁ?」

今までで一番いい笑顔を浮かべて首を傾げた今吉先輩。
こんなイケメンの笑顔なんてもっと他のシチュエーションで見たかった、そう思う余裕がある自分に驚きだ。
先輩が笑うのにつられて、手で隠されたあたしの口角まであがってしまう。
しかしあたしの場合は先輩とは大きく違い、それはひくひくと引き攣っている。

「ルイちゃん?」





微笑む
(その笑顔の裏に見えたもの)
(さぁ、逃げ場はない)









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