ひょい

「あー!!それあたしの肉!」
「早く食わねェのが悪ィ」
「わざと残しといたのよ、バカエース!」

朝から騒がしい食堂の中で一際大きな声を張り上げて立ち上がったのは、白ひげ海賊団唯一の女戦闘員であるあたし、ルイ。
口をモグモグと動かしながらその後ろを通りすぎていくのは、2番隊隊長のバカエース。

歳が近いせいもあってか、エースは何かとあたしを構う。
こうやっておかずを取られるのなんか毎朝のことだし、くだらないイタズラに引っかけられることもある。
その度に巻き込まれるだけのあたしまでマルコ隊長に怒られるから、いい加減イライラしていて、そのガキ臭い言動に嫌気がさしていた。


そんなある日のこと、このレディホーク号に命知らずな敵襲があったのはついさきほど。
真っ先に甲板に飛び出し相手と交戦を始めれば、それが合図のようにどちらのクルーも声をあげて飛び出した。
もちろんあたしたち白ひげが負けるわけなどなく、ものの数分で粗方片付き、残すところ敵の船長を含む少数となった。
しかし、その船長は最後の悪あがきに女であるあたしに目をつけ、未だ雑魚クルーと交戦中だったあたしの背後を襲った。
目の前の敵を倒し咄嗟に振り向いたけれど、眼前に迫った斬撃を防ぐ術はない。
あたしは顔の前で腕を交差させ、目をギュッと瞑ることしかできなかった。

「っ、ルイ!」

刹那、聞こえたのはバカエースのあたしを呼ぶ声で、体に感じたのは痛みではなく温もりだった。
慌てて目を開ければ、目の前には炎に焼かれた敵の船長の姿。
あたしの肩を力強く抱く腕は見慣れたソレで、あたしは目を見開いた。

「ルイに手ェ出してんじゃねェよ!」

いつもガキ臭いイタズラばかりするエース。
クルーと楽しそうに笑い合うエース。
戦いになっても不敵な笑みを絶やさないエース。
あたしが知っているのはそんなエースばかり。
なのに…どうしてそんな真剣な目をしているの?
あたしが知らないエースの横顔が、そこにはあった。






惚れる
(初めて見る真剣な表情に)



2012.12.19





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