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「…それは、事実か?」
「あぁ、黒崎一護が存在しないということが、私にとっては何よりの証拠だ」
「そうか…」
全て、包み隠さず二人に話した。
ここがおそらく異世界であるということ、自分が死神であるということ、自分のいた世界でのこと、尸魂界のこと。
二人、特に與儀は大きく目を見開き、口をだらしなくポカンと開けたまま私を見つめる。
信じられなくて当然だが、そのアホ面はどうかと思う。
「もう100年近く生きてるって…ホ、ホント…?」
「生きていると言っても死神としてだけどな。私は與儀よりも平門よりも遥かに年上ということだ。まぁ、正確な年齢はもう覚えてないんだが」
「み、見えない…!」
「死神はそういうものなんだ」
「信憑性には欠けるが…少し調べておこう。君の情報が何も出てこなかったとしたら、その話を信じるしかないだろうな」
「信じてもらえるとは思ってないさ。隠しておくのが嫌だっただけだ」
「そうか」
驚愕したままの與儀とともに、「療師の元へ行くように」と平門から追い出され、彼の部屋から出た。
隣に並んだまま動き出そうとしない與儀の顔を下から見上げれば、いつまでもアホ面のままだった。
苦笑を交えたため息を吐きながら、與儀の頬へ手を伸ばす。
「へ、名前ちゃ…って、いひゃい!」
ぐにょんと與儀の両頬を横に引っ張る。
やっと我に返った與儀が情けなく悲鳴を上げる。
「いひゃいいひゃい!はなひてー!!(離してー!!)」
「ほら、いつまでそんな情けない顔をしてるんだ。療師とやらの所へ私を案内してくれるんじゃないのか?」
「あ、うん!」
手を離してやれば、一瞬で笑顔になった與儀に連れられて、この艇の医療を担当しているという療師の元へやってきた。
與儀に「じいちゃん」と呼ばれた白い髭をたくわえた療師。
たったそれだけなのに、その姿が総隊長殿と重なった。
話してみれば似ているのは髭だけで、中身は全くもって正反対のようだったのだが。
寝台に座らされて採血をし、いくつかの器具をつけられる。
付近の機器に映し出される文字や数値はもちろん理解できない。
診察をしている間、顔についた血を落とせと温かく濡れたタオルを渡され、ありがたく受け取り顔を擦った。
顔と髪の血は取れたが、死覇装についてしまったものはおそらく洗わなければ落ちないだろうとぼんやり考えた。
その後、しばらく與儀と談笑しながら大人しくしていれば、療師は唸り声を上げながら私の正面のイスに腰を下ろした。
「うーむ…お前は本当にこの世界の人間じゃないようじゃのう。ほとんどの項目が測定不可能じゃ」
「やはり、そうですか」
「しかし能力者の反応は出ておらんかったから安心せい」
「それはよかった、安心しました」
「あれ、名前ちゃんどうしてじいちゃんには敬語なの?平門さんにも使ってなかったのに」
不思議そうに首を傾げた與儀に苦笑しながら答えた。
「療師のお髭が、総隊長殿に見えるものでな」
「総隊長?」
「さっき説明しただろう。私の所属している護廷十三隊の全てを統べるお方だ」
「じゃあ一番偉い人ってこと?」
「そうだ」
與儀と話している間に、療師が私につけられていた器具を全て外してくださった。
これで診察は一応終了らしい。
療師に一礼して、與儀とともに部屋を出る。
「よしっ、名前ちゃん!」
「ん?なんだ?」
「おフロ行こっか!」
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