18



「お前が例の死神とやらか」
「死神だがちゃんと名ぐらいあるぞ。名前だ、よろしく頼む」
「フン…まぁいい、診察してやる」

无が倒れて一夜明け、私たちは研案塔というところへ連れてこられていた。
医療機器が充実しており設備もよく、艇よりも細かい検査や診察ができるという。
そういうわけで、能力者に接触した花礫、无、そして付き添いの與儀、療師とともにやって来た。
草鹿副隊長を彷彿とさせる鮮やかな桃色の髪に長身の、目の前にいるこの男は、燭という。
なんとも不遜な態度ではあるが、テキパキと診察するその手が素早く、正確に動くところを見る限り、口だけではないようだ。
政府の要人だと聞いたが、それだけのことはありそうだ。
あっさりと診察は終わったが、案の定私はここでも測定不能だった。

「…お前が人間ではないというのは本当のようだな」
「なんだ、疑ってたのか?服装なんて明らかに違うだろう」
「服装などでわかるわけないだろう馬鹿か。私はデータの数値しか信じない。そのデータが出ないのだから、お前を我々と同じ人間だと認めるわけにはいかないだろう」
「…そうか」
高圧的な態度、不遜な口調。
同じようにお話になる砕蜂隊長には、燭と違って威圧感がある。
多分こんなことを言うと燭は怒るのだろうが、燭のこの態度は何とも可愛らしく見えてしまう。
この差はなんなのだろうか。
そんなくだらないことを考え、燭と死神についていくつか話をしたあとで診察室を出た。
花礫や无の診察も終わり、二人とも特に目立ったことはないが、夜も遅くなってしまったということで、今日はここに泊まることとなった。
看護師に案内された部屋に入れば、3人で休むには広すぎるような部屋で、大きな窓から見える空は満点の星空だった。

「真っ暗だな」
「だが、星があるおかげで明るく見えるな」
「嘉禄と住んでたとこみたい!」
「…どこが?」
「あのへん」

无の指差す方向を見ながら、花礫は思案顔になる。
視線を落として自分の手を見つめ、そして小さく拳を握る。
何を考えているのかなんてのはわかるわけがなく、花礫が何を抱えているのかなんてわかるわけがない。
そんなことは百も承知だ。
だけど、こうして目の前で苦しんでいる人を見れば助けてやりたいと思うのが人の性だ。
この世界の人間ではない自分が何も出来ないことに対する歯がゆさを感じる反面、出逢って数日の花礫や无、輪の面々にこんなにも情が移っていることに少し驚きもした。

「…お前に会ってから、綺麗なモンばっか見てる気がする」

花礫がぽつりと呟いた。
視線は外に向けたまま、无に向って続ける。
私は、ただ黙って花礫の話を聞いていた。

「…あんまそーいうモン見て、綺麗な(正しい)考え方覚えて、大人になって、忘れて、自分だけ楽になりたくない」
「………」

私は何も言えなかった…いや、言うべきではなかった。
花礫が何を言いたかったのか、私にはなんとなくわかる気がした。
だが、何一つとして、今の花礫に届く言葉などなかったし、もしあったとしてもそれは私ではない人間が言うべきだ。
その事実に少し胸を痛めながらも、二人を少し後ろから見つめる。

「…キレイなものがキレイって見えるの、花礫の目もキレイって事だよね?」

无の無邪気な純粋な言葉を受け、花礫は即行で布団にもぐりこんでしまった。
心配した无には貧血だと無理矢理取り繕い、頭まですっぽりと覆ってしまっている。
不思議そうに私を振り返り、首を傾げた无に、私は苦笑を返した。
大方、无の言葉に対する照れ隠しのようなものだろう、心配することはない。

「貧血なら、少し寝かせてやらないとな。无はどうする?お前も寝るか?」
「ううん、外見てる」
「そうか」

部屋にあったイスを窓際まで持ってきてやれば、无は笑顔で礼を言ってそこに腰かけた。
私はもう1つ置かれていたベッドに腰かけ、そんな无の様子を見つめていた。




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