15


无の容体が一応は安定と呼べるようになり、室内に入る許可を得たのだが與儀は騒いで手厳しく追い出され、ツクモも慌てて部屋を飛び出していってしまった。
ふらりとやってきた平門も忙しいのか、すぐにいなくなった。
今は、花礫が療師から何やらありがたいお言葉をいただいている最中だ。
私は无の横たわる寝台に座り、その白い髪を優しく撫でている。
気付けば療師は部屋を出て行った後で、室内には眠る无と、私と花礫だけとなっていた。
溜め息を吐いた花礫は、无の側に立つ。
私は无を見下ろす花礫を見上げ、疑問に思っていたことを尋ねた。

「花礫、无が言っていた『カロク』って何者だ?」
「…俺も、詳しくは知らねぇ。无はそいつと暮らしてたらしい。无のしてるその輪(ブレス)を血だまりの中に落として消えたらしい」
「ふぅん…」

一緒にいた花礫でも知らないのか。
さっきのうめき声の合間にぽつりと漏らしていた名でだが、当然のことながらさっぱりわからない。
今は穏やかに眠っているだけだが、その小さい体で何を抱えているのだろう。
それは、きっと部外者の私には計り知れないのだろう。

「オイ、どこ行くんだよ」

立ち上がった私に花礫が声をかけた。
私は與儀と療師によって壊された戸へ向かい、肩越しに首だけ振りかえった。

「與儀が外で伸びてるだろ?ソファに寝かせてくる」
「そんなん、ほっとけば?」
「ついでに何か飲み物も貰ってきてやるから、无のこと見ててやってくれ」

外に出れば、すぐ目の前にうつ伏せで倒れている與儀がいて、その長身を無理矢理背負い、近くの部屋のソファに寝かせた。
偶然通りかかった羊に花礫と无の元へ飲み物を持って行くように頼んでいると、背後でうめき声が聞こえた。
振り返れば、寝かせたばかりの與儀が頭を抱えて身を捩っていた。

「いっ、てて……もう〜じーちゃん…ただのジジイじゃないんだから手加減してくんないとさ〜…」
「與儀?大丈夫か?」

声をかけると私を見遣って、何度か瞬きをした後で情けない顔になった。

「名前ちゃんが運んでくれたの?…大丈夫だよ〜ありがとね〜」

へにゃりと笑った與儀にほっと胸を撫でおろしたのもつかの間。
ふらりと突然現れた花礫が、與儀に馬乗りになった。
與儀の胸倉を掴んで、とても不機嫌そうなオーラが出ていた。

「が、花礫?どうした?」

声をかける私の声も届いていないようで、完全に怯えてしまっている與儀に凄む。
與儀は咄嗟に両手をあげて降参の意を示すが、冷汗がダラダラ流れている。
花礫の、今まで聞いた中で彼の一番低い声が聞こえた。

「あのヒゲジジイどこだよ…」
「ええ?えっと…?」
「クソガキが起きたって伝えろよ」
「わかったー…から、落ち着こう〜?」
「花礫、少し落ち着け」

與儀が可哀そうになり、花礫の肩に手をやりその上からどかす。
その間に與儀の携帯電話へツクモから連絡があったようだが、與儀はくだらないことを言って花礫に睨まれていた。
さっと療師の霊圧を探ってから2人の肩に手を置き、ポンポンと優しく叩く。

「2人とも落ち着け。无が起きたんだろ?療師は平門と一緒にいるようだが、伝えにいった方がいいんじゃないか?」
「あ、そうだね!平門さんなら多分部屋にいるだろうから、一緒に行ってみよ〜」

ソファから立ち上がった與儀に花礫と2人ついていく。
花礫の不機嫌さはまだ収まっていないようで、びくびくと何度もこちらを振り返る與儀が、こんな長身のくせにまるで小動物のようだった。
それにしても、私が部屋を出てからの短時間に何があったのだろうか。




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