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「名前ちゃん、また返り血…」
「心配するな、ケガはない」
「よかった…名前ちゃんが居てくれなかったら、无ちゃん連れてかれてたかも…本当に、ありがとね」

申し訳無さそうに眉をさげて謝る與儀に苦笑をもらす。
気にするなと伝えて頭を小突けば、頼りない笑みを浮かべた。
艇の廊下を進んでいけば、羊に連れられて先に戻っていた无がいた。
與儀はその姿を確認すると大声で名を呼びながら无に駆け寄っていた。
无は涙を浮かべながら與儀と抱擁をし、花礫が冷めた瞳でその様子を眺めていた。
私とツクモはそんな花礫の傍に立っていたのだが、ぽつりとツクモが「あの能力者…」と呟いた。

「无君を理由があって連れて行こうとしてた…何があるの?」
「…俺が知るかよ」

ツクモの呟きに返答した花礫は先を歩く與儀と无についていくように進んだ。
私は立ち尽くしているツクモの背中を押して進むよう促した。

「怖かったね〜お風呂入ってあったまろ〜」
 
與儀が笑顔で无に言い、无はそれに笑って答えようとした。
しかし、小さく口を開いた瞬間、无の顔から表情が消え無表情になったかと思ったら、突然頭を抱え出した。

「无ちゃん?」
「あ…?あ……ぁ…」

両手で頭を抱えて俯き、苦しそうに声を漏らす。
よく見ればその瞳に薄らと涙が浮かび始めている。
私とツクモとともに慌てて无に駆け寄る。

「无!どうした?」
「无君…!」
「无ちゃん!?」
「カロ、ク…っ」

私たちの呼びかけに无は答えず、その場に倒れこんでしまう。
いくら呼びかけても苦しそうに呼吸を繰り返し、額に汗を浮かべながら蹲る。
こういう時に使える癒しの鬼道が存在することは知っているが、十一番隊の私が知る由もなく、无の苦しみを少しでも取り除くことができない自分が歯痒かった。

「ずっと…さび…し、か……」
「无?」

无が小さく呟いたうわ言を无の傍に立ち尽くす花礫が拾う。
何か思い当たる節でもあるのか、しゃがみ込んだ花礫。

「お前なにか、アイツにヤられて…?」
「動かさないでね!じーちゃん呼んでくるから!」
「平門!无君が…」

與儀は立ち上がって走り去り、ツクモは平門に連絡を取る。
何もできない自分は无の身体を優しく撫でることしかできなかった。
「无…」
「いた…い……」

涙を浮かべて花礫に伸ばされた无の手を、花礫は静かに取る。

「男だろ。しっかりしな」

低い声で小さく言うと、无は安心したように目を閉じた。
一瞬死んでしまったのかという考えが脳裏を過ぎったが、大丈夫、霊圧は消えてない。
同じように驚いた花礫が何度も呼びかけるが、无は気絶をしてしまったらしい。
すぐに與儀とあの療師がやってきて、无を診る。

「ふむ…とりあえず部屋まで運ぶぞ。抱えろ、與儀」
「は、はい!」

无を抱きかかえた與儀は慎重に療師のあとをついていく。
「私も!」と立ち上がったツクモがその後に続く。
私も後を追おうと腰を持ち上げたが、隣に立つ花礫は動き出そうとしない。

「花礫?」

声をかけても反応しない。
何か考え事をしているのだろうか表情はなく、少し血の気の引いたような顔で、與儀達が消えた先を見つめていた。

「…花礫」
「っ!」
「行くぞ」
「っ、あぁ…」

花礫の背中にポンと手をやる。
ぴくりと肩を揺らした花礫に声をかけ、私は先を歩きだす。
後ろをついてくるのを確認して、彼らの霊圧を追った。




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