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「ごちそうさまでした」

一番最後まで食べ続けていた私が手を合わせると、與儀はよしっ!と意気込んで立ち上がった。
ツクモは相変わらず無表情、无は楽しそうに瞳を輝かせ、花礫は嫌そうにうんざりとした表情を見せた。
私が食べている間に、これからかくれんぼをすることになったらしい。
與儀の横にいる羊により1時間の時間設定がされ、しかも見つけてもらえなかった人は羊が迎えに来てくれるらしい。
なんという優れモノだろうか、さすがもふもふの羊。
與儀が楽しそうに話すがそれでも乗ってこない花礫に、ツクモが動いた。

「鬼は私がやる。かなり得意なの。フツーの人はレベルに付いて来られないから、無理して参加しなくていいけど」
「………やる」

私は與儀と目を見合わせた。
まさかツクモがそんな挑発めいたことを言うとは思わなかったし、あんな見え見えの挑発に花礫が乗るとは思わなかったのだ。
苦笑を漏らすが、花礫が乗ってきたことでかくれんぼは始まった。
範囲はこの艇の立ち入り禁止区域以外全てを使っていいらしい。
どこにいっても最終的には羊が迎えに来てくれると思うと、迷う心配をせずに思い切り隠れられる。
かくれんぼなんて流魂街にいた頃以来だから、もう何十年も前になるんだろう。
久しぶりのことに人知れず笑みをこぼしながら、隠れる場所を探した。
しばらくして、反則かとも思ったがツクモの霊圧を探ればもう食堂を出た後で、私たちを探し始めているようだった。
彼女の霊圧と與儀の霊圧が接近しているから、多分最初に見つかるのは與儀だろう。
その後花礫の霊圧と接触し、残るは私と无だけとなった。
自分が簡単には見つかっていないことにすこし口角が上がるが、真っ先に見つかると思っていた无がなかなか見つからないことに少し驚きだった。
无はどこに隠れたのかと霊圧を探った瞬間、突如として无の霊圧が艇の中から消えた。
あの子が自分から艇を降りるというのは、今までの言動から考えられない。
ということはおそらく、何かしらの理由で誤って艇の外に出たのだろう。
先ほどまでの花礫や與儀たちの会話から、艇が下に降りているということはわかっていたから、落ちたとしても大したケガはしてないだろうから心配はいらないだろう。
ツクモか與儀を呼びに行こうと隠れていた物置部屋から出る。
だが、无の霊圧のすぐ近く、昨日感じたばかりの、能力者のあの妙な霊圧を感じ取った瞬間、私は床を蹴った。

「闇に舞え 胡蝶!」

瞬歩で艇の出入り口まで来ると、解号を唱えながら艇から外に出る。
視界に映るのは地面に座り込んだ无と、その正面から彼に近付く禍々しい化け物。

「蝶の舞……與儀とツクモの元へ行って、伝えて」

出現させた蝶に指示を与えれば、数匹の蝶たちは艇へと戻って行く。
私は无と能力者の間に降り立ち、无を庇うようにして化け物を見据える。

「貴様、能力者だな」
「おや…?見ない顔ですね、『輪』の人間ではないようだが、どなたでしょうか?」
「貴様のような化け物に名乗る名は持ち合わせてはいない」

姿に似合わない丁寧な口調で流暢に話す目の前の化け物を睨みつけながら、背後で座り込んだ无の周りに蝶を浮かび上がらせる。
この蝶たちにはもしものための盾となってもらう。
化け物は、私が无を守ろうとしていることに気付くと表情を変えた。

「誰だか知りませんが…私はその少年を連れて帰る命がある。邪魔しないで頂きたい!」




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