廊下にいた羊に案内を頼んで平門の部屋を訪れ、外から声をかける。

「平門、私だ」
「入れ」

返答を確認して戸を開く。
部屋に入れば平門はこちらに背を向けるようにして机に向っていて、また顔だけこちらに向けて、その隣にあるソファへ座るように促す。
私は大人しく従い、そのソファに座る。
平門の机の上にはたくさんの書類が山積みになっていて、日番谷隊長や市丸隊長の机のように見えた。
更木隊長の机の上には書類どころか筆すらなかったことを思い出して、小さく笑った。
そりゃそうだ、全部私がやっていたんだから。

「悪いな、呼びつけて」
「いや、それよりも話ってなんだ?」
「お前が昨日言っていたことだ。やはり、どこを探しても、お前の存在を示す情報は何一つ見つからなかった」
「そうか」
「あぁ、これでお前の言っていた話を信じるしかないということだ」

苦笑する平門に私も苦笑で返す。
信じてもらえない、信じられないというのもわかってる。
それでも、これが現実だ。
羊が持ってきてくれた飲み物を戴こうかと思ったが、それは雀部副隊長が好んでいる赤いお茶、紅茶だ。
一度飲ませてもらったことがあるが、私はどうもそれが好きにはなれず、だがここにはいつも飲んでいた緑茶は存在しないらしい。
仕方なく手をつけることはせず、優雅にカップを持ち上げて口をつける平門を眺めていた。

「お前が言っていたことが事実なら、お前はたった今から保護対象ではなくなる」
「どういうことだ?保護対象じゃないなら、艇を降ろされるのか?」
「そうじゃない、むしろ艇を降りられる可能性はなくなったと言っていいだろう」

頭に疑問符を浮かべて平門を見る。
彼はいつまでも表情を変えず、ただ淡々と事実だけを私に伝える。

「危険人物として、我々の監視下に置くということだ。まあ、保護という意味合いも多少はあるがな」
「危険人物…」

そりゃ当然だ。
突然異世界から堕ちてきて、『輪』の敵である能力者をあっさりと倒してしまうほどの力を持つ人間。
正確には人間ではなく死神なのだが、霊体の私を難なく見ることのできるこの世界では、人間と言っても差異はないだろう。
存在を証明できるものは何もなく、私に関しての情報は私の口から語られるものが全てとなり裏を取ることができない。
不確定要素が満載だ。
ただ保護されたからここにいるだけであって、『輪』の味方というわけでもなく、思想や考えでどう転ぶかなんて私にもわからない。
もちろんそんなつもりはないが、要するに、いつ『輪』の敵になったとしてもおかしくないということだ。
客観的に考えてみても、危険人物に値するには充分すぎる。
監視や保護といった考え方にも納得がいく。
もし私が平門と同じ立場だったら、敵の手に死神の力が堕ちることは一番に危惧をする。
せっかくこの手中にあるのだ、それを防ぐには先手を打ち、どんな動きを見せようともそれを許さなければいい。
自由を奪い、人権を否定し、“人”ではなく“駒”として扱えばいい。
私だったら、間違いなくそうするだろう。
彼らは私たちと同じなんだ。
同じように組織の一員で、同じように多くの人の命を背負い、時に非情と思われるような決断を迫られる。
個人の自由と人権、それと敵勢力の拡大を天秤にかけるとすればどうなるか、そんなのは一目瞭然だ。
気持ちはわかる。
だから、これは当然の対応だ。




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