携帯電話を仕舞った與儀はこちらに歩み寄り、2人の身体に腕を回して軽々といった様子で2人を持ち上げる。

「名前ちゃんはちょっと待っててね。2人を艇に置いたら迎えにくるから」
「あぁ、それなら心配いらない。艇までは自力で行ける」
「え?そうなの!?名前ちゃんってホント…まぁいいや!じゃあ、ついてきてね!」

飛び上がった與儀に続いて地面を蹴った。
入り口から艇内に入れば、與儀が2人にただいまを言わせている既視感のある光景が広がっていた。
黒髪の少年が嫌そうに言っているのを見て苦笑を漏らした。
與儀を先頭に、廊下を歩く少年達のすぐ後ろに私もついていき、ある部屋に入っていくと、中にはツクモと平門が待ち構えていた。
室内に入ったから、と被っていた外套を脱ぐ。

「また会えて嬉しいよ。待っててと言って振られたのは寂しかったけどね、君等をよく知る時間が持てた。『花礫』君、『无』君?座って」

平門に促されて花礫、无と呼ばれた2人の少年は平門とツクモの正面に座った。
私は机を挟んで向い合う彼らの、ちょうど真ん中にあたる場所にある椅子に腰掛け、その後ろの背もたれに與儀が腕を乗せて寄り掛かった。
平門の自己紹介から始まり、私が教えてもらったような『輪』や能力者についての話を進めていく。
途中、何度か『嘉禄』という人物名が出てきて、无が探している人物らしいが詳しいことはさっぱりだった。
花礫には『ミネ』という女の能力者の話が振られ、2人はその能力者に接触したということを知った。
ということは、私同様彼らもここで保護対象とされるのか。
拒否権はないと言い切る威圧的な平門に対して、我慢の限界だったらしい與儀がとうとう声を上げた。

「お…重いよっ空気が〜!なんでそんな威圧的に話してんの平門サン!しばらく一緒にいるならもっとフレンドリーに!」
「なんだ、いたのか與儀」
「ええっ…うわーん!名前ちゃ〜ん!」
「うぐっ…與儀!首を絞めるなっ!」

確実に平門がからかっただけなのに、バカ正直に真に受けて涙目になる與儀が、勢いよく後ろから首に腕を回すものだから、一瞬息ができなくなった。
無理矢理引っぺがしている間に話は終わったのか平門は席を立ってしまっていた。
その背中に視線を向けていると、部屋を出る直前でこちらを振り返った。

「あぁ、名前、あとで俺の部屋に来い。話がある」
「?わかった」

顔だけこちらに振り返って言うと、平門はさっさと部屋を出て行った。
残された私たちは、仕切りなおしとでも言うように明るく自己紹介を始めた。

「俺、弐号艇闘員の與儀!よろしくね〜」
「同じく、ツクモです」
「俺、无です!」
「花礫…アンタは?」

最後に私へと視線が向けられたのだが…何と言えばいいのか。
こう見えて死神で、異世界から迷い込んだ…なんて言ったところで、変に不安を与えてしまったらどうする。
だからといって、『輪』の闘員というわけでもないし…。
しばしの思案の結果、なんとなく濁すことにした。

「私は苗字名前という。お前たちと同じく能力者と接触したことがあって、今は保護対象としてこの艇に乗っている。闘員ではないが、よろしく頼む」
「ふーん…アンタ、闘員じゃないのに何であんな強いわけ?」
「それは…」

花礫に問われ、何と答えればいいのかわからず閉口する。
そこに與儀が助け舟を出すように入ってきて話を変え、2人を部屋へ案内していくこととなった。
與儀が2人の背中を押して部屋を出ていったのを確認して、ため息を吐いた。

「ツクモ、奴らに私のことを話すべきだと思うか?」
「…話しても、簡単に信じられることじゃないかもしれない」
「そうだな…とりあえず、私は平門の元へ行くことにする。そうだ、與儀に礼を言っておいてくれ」
「えぇ、わかったわ」
「ありがとう」

ツクモに礼を言って私も立ち上がり、部屋を後にする。





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