昨晩、青峰が溜めていた仕事のツケが何故か降りかかり、お気に入りの第2埠頭へ行くことができなかった凛。
文句の一つでも言ってやろうと青峰の自室へ向かえば既に中はもぬけのからで、ただでさえイラついている凛に拍車をかけることとなった。
桜井の制止の声をシカトし、まだ日が沈む前に第2埠頭へやってきた凛は、いつものように灰皿の側までやって来て、そして不思議な違和感に首を傾げた。
何の気なしに灰皿を持ち上げてみれば、その裏から何かがはらりと凛の足元へと舞い落ちた。
しゃがんで拾い上げれば、それは1枚の白い紙だった。
中央に並んだ英字の羅列はメールアドレスを、その下の数字は携帯番号をそれぞれ示しているのだろう。
不審に思いながら紙を裏返せば、そこには整った字で“黄瀬涼太”と書かれていた。
つまりこれは、黄瀬の連絡先ということだ。
ここでケータイを出して彼に連絡を入れたってよかった。
だけど、何故かそうしようとは思わず、凛はその紙を畳んでポケットの中に仕舞い、取り出した煙草に火をつけた。



***



自室の扉を押し開ければ、部屋の中には姿の見えなかった青峰が、ソファに無遠慮に座っていた。
朝の怒りを思い出し、凛は文句をと口を開く。
しかし、先に言葉を発したのは青峰だった。

「お前、黄瀬にはもう会うな」

いつかバレるんじゃないかとは思っていた。
だが、バレるのであれば確実に桃井ちゃんか今吉さんだと勝手に思っていたため、予想もしていなかった人物にそれを言われ、凛は驚きで目を見開いた。

「…お前も分かってんだろ?」
「………うん」
「なら、やめろ。死にたくはねぇだろ」

青峰が自分を心配して言っていること、凛はわかっていた。
だからこそら、彼の言葉に頷かないなんてことはできなかった。
青峰が部屋を出た後のソファに座り、凛はケータイとあの白い紙を取り出した。
メール作成画面を開き、用紙に書かれている英数字を宛先の欄にゆっくりと打ち込む。
もう会わないといった旨を文章にし、最後に自身の名前を添えた。
大きな喪失感を感じながら、少しの逡巡の後に送信ボタンを押した。
凛は、黄瀬が自分の中で大きな存在であり、敵であるはずのその男に対して、好意を感じていたことに改めて気付いた。
寂しさを覚えながらぼうっと一点を見つめていれば、持っていたケータイが震え、メールの受信を告げた。
送信者は黄瀬。
少し緊張してメールを開いた凛は、そこに書かれていた内容に目を見開いた。


from:黄瀬涼太
to:凛
Sub:Re:
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
メールくれてすっげー嬉し
いっス!
だけど、凛っちと
会ってたことがファミリー
にバレて、俺は今追われて
るっス。

メールで言うのもあれっス
けど、俺は凛っちが
好きっス!
大好きっス!
だから、もし凛っちが俺
と同じ気持ちでいてくれる
なら明日の朝、あの場所に
来てほしい。

俺が守るから。
一緒に逃げよう。

    -END-



心が揺れていた。





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