この数週間で通い慣れた第2埠頭。
黄瀬は、凛によって綺麗に保たれている灰皿に自分の吸っていた煙草を押し付けた。
今までであったら既にこの場所に来ているはずの凛が一向に姿を見せない。
立場上は敵であり、連絡先も知らないから何故来ないのかもわからず、ただひたすらに待つことしかできない。
落ちつかない様子で黄瀬が3本目の煙草を吸い終えた後、不意に人の気配を感じた。
凛だと思い、頬緩ませた黄瀬は、彼女がこのコンテナの陰に姿を見せるのを待った。
しかし、そこに現れたのは浅黒い肌に青い髪―黄瀬のよく見知った人物であった。

「青峰っち…?」
「よぉ、久しぶりだな…黄瀬」

ニヒルに笑み、くたびれたスーツのポケットに手を突っ込んだまま黄瀬と対峙した男は、中学時代の友人であり、黄瀬がバスケを始めるきっかけにもなった男だ。
高校は別のところへ進み、卒業後はお互いぱったりと連絡を取り合うことはなく、どこで何をしているのか、さっぱりわからなかった。
憧れていた男と久しぶりに会えたことが嬉しく、黄瀬は思わず青峰に昔のように駆け寄ろうとした。
しかし、そこでふと足を一歩踏み出したところで止め、凛が言っていたことを思い出した。
この埠頭が凛のファミリーのものとなってから、ここには全くと言っていいほど人が寄りつかなくなった、と。
ここにマフィアがいるという噂が、近辺の一般人の間で出回っているらしい。
そんなことを知れば、誰も近付かなくなるのは当たり前だと笑ったのを覚えている。
では、何故ここに青峰がいる?
黄瀬が不思議に思って青峰を見つめれば、その視線の意味に気付いた青峰が、「あぁ」と口を開く。

「俺も同業だ」
「え」

その言葉に、黄瀬は目を見開いた。
まさか自分の知っている人間が同じ世界にいるとは思っていなかったから。
驚きで目を丸くする黄瀬を見て、青峰は目を細めた。

「信じられねぇか?なら、見た方が早ぇよな」

そう言うと同時に、黄瀬に向けられたのはリボルバー。
想像もしていなかった青峰の行動に黄瀬は戸惑うばかりだが、放たれた殺気に体は素早く反応し、地を蹴っていた。
青峰から少し距離を取った黄瀬は、相変わらず目を見開いたまま困惑の色を隠すこともしなかった。

「俺はお前を殺したくはねぇ…だから1つ、忠告しておくぜ」

リボルバーの銃口は真っ直ぐに黄瀬を捉えている。
青峰から飛んでくる殺気は本気のそれで、殺したくないと口にしながらも、いざ敵となれば躊躇なくその引き金は引かれるのであろうことがわかった。
黄瀬は冷や汗を流し、ただ青峰を見つめていた。

「凛に近付くな」
「え…凛さん、っスか?」

聞えてきた知った名前に、ぽろりと言葉が漏れた。
その黄瀬の言葉に青峰は肯定を返し、もう1度低い声で手を出すな、と続けた。

「なんで…っ」
「…この世界での、裏切り者の末路は知ってんだろ」
「っ、」

青峰のその一言で、黄瀬は全てを理解した。
出逢った当初から頭の片隅で懸念していたことだ。
黄瀬と凛は敵対するファミリー、馴れ合うことなど許されない。
もし、互いが密会している現場にでも遭遇すれば、それは双方に裏切り行為とみなされるだろう。
マフィアの世界において、裏切りは絶対にやってはならない行為であり、その禁を犯せばそれ相応の報復が与えられる。
黄瀬はまだこの世界に入って日が浅いとは言っても、もちろんそういったことは知っていて、それを承知で凛と会っていたのだ。
青峰は、それら全てを理解した上で黄瀬に銃を向け、尚且つ引き金を引いていないのだ。
だが、それでも腑に落ちない。

「これ以上凛に会おうとか考えんじゃねぇぞ…マジで殺すからな」
「なっ、ちょ…!」

青峰はドスを利かせてそう言い、リボルバーを仕舞うと黄瀬の返答も待たずにさっさと歩き去ってしまった。
何故だかわからないが、黄瀬はわかってしまった。
青峰がここまでする理由、彼の行動が腑に落ちなかった理由が。

「好きなんスね…青峰っち」

何か言ったわけでも何でもないが、直感的に黄瀬はそう思ってしまった。
そう思えば全てのつじつまが合うというか、納得できるというか。
黄瀬は青峰の去った方向を見つめ、拳を力強く握り締めた。
好きな女をみすみす渡してたまるものか。
青峰に何を言われようと、黄瀬には凛を諦めるつもりなんて毛頭なかった。
握り締めた拳を、側にあったコンテナへと思い切り打ち付ける。
ガンッ!という鈍い音を暗闇に響かせ、1つの誓いを胸に黄瀬は第2埠頭を後にした。



(譲らないっス、青峰っち!)






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