「ただいま戻りましたー」

黄瀬と別れ、トーランティファミリーのアジトとなっているビルの一室に帰ってきた凛。
ボスの部屋の扉を開け、だるそうに自身の帰還を告げる。
ドアを押し開けたと同時にボスの愛用している香水のキツイ香りが漂ってきた。

「なんや凛、またあの場所行ってたんか?」
「毎日のことですけどね」
「せやな。向こうに青峰来とるから構ってやー」
「えー…」
「ボスの命令♪、やで?」
「…こんなボス嫌」
「そんな褒めんといてや」

胡散臭い関西弁を操り、常に微笑を浮かべているファミリーのボス、今吉翔一。
彼はこの若さでトーランティファミリーを、日本有数のファミリーへと成長させたという、この世界では知らない者がいないくらい伝説となっている男。
凛が今ここにいるのもこの男に拾われたからであり、その腹の黒さに誰であろうと逆らうことは出来やしない。
彼のご機嫌そうな声を背に受け、嫌々ながらもボスも命令に従おうと足を動かした凛は、何やら怒鳴り声が聞えてくる部屋のドアを開けた。

「っ、何回言ったらわかんだよっ!」
「俺に命令すんじゃねーよ、うるせぇな」
「てめっ、仮にも先輩にんな口…!?」
「知らねーよ…んあ?凛じゃねぇか」

気だるそうに欠伸を噛殺す青峰の胸倉を掴んでいる若松。
そんな見慣れた光景に凛が溜息を吐けば、青峰が先に凛の存在に気付く。
彼の声に反応した若松も部屋に入ってきた凛へと目を向けた。

「若松さん、お疲れ様です」
「…おう」
「青峰、借りてもいいですか?」
「…勝手にしろ」

若松にそう言えば、未だ眉間に皺を寄せたままの彼は、渋々といった様子で青峰のスーツからするりと手を離した。
凛は若松に軽く頭を下げてから青峰の腕を掴み、半ば強制的に部屋から連れ出した。
黙って凛に着いてきた青峰だったが、人気のなくなった廊下に差し掛かかった途端、凛に掴まれていない方の腕を凛の腹へ回し、自身の胸へと引き寄せた。
女の凛が男の青峰の力に勝てるわけがなく、そのまま青峰に抱き込まれる。

「ちょっと、青峰…放して」
「…お前、香水でも変えたか?」
「変えてないわよ」

腕から逃れようと身を捩る凛を無視し、彼女の首元に顔を埋める青峰はすん、と鼻を鳴らして問いかける。
凛はその言葉にすぐさま否定を返すものの、青峰の腕が弱まる気配はない。
諦めて溜息を吐けば、それに気をよくしたのか、青峰は凛のブラウスの裾から手を侵入させた。
本気で嫌気が差して凛は止めさせようと口を開くが、顎を持って顔だけ後ろへ向かされ、そのまま青峰の唇で凛のソレは塞がれた。
無理矢理舌まで捻じ込み、嫌がる凛を気にすることなく彼女の口内を蹂躙する。
その間も反対の手は、凛の許可もなしにブラウスのボタンを外しにかかる。
どうにかして青峰から逃れようとした凛は、動かせる肘を容赦なく思い切り後ろへ突き出した。
それは綺麗に鳩尾に入ったらしく、青峰は口も腕も凛から放し、痛むところへ手を当ててた。

「痛ぇ…てめっ、何すんだよ」
「人の同意もなしに襲うとかありえないから」
「別に、今までだって何度もヤッただろ?」
「今はそういう気分じゃないのよ。マジでやめて」

青峰を睨み付け、冷たくそう言い放った凛は肌蹴た服を整え、青峰を置いてさっさと歩いて行ってしまった。
凛を追うことをしなかった青峰は、その後姿を眺めながら、いつもの凛と何かが違ったことを感じ取った。
鼻に残るのは嗅ぎ慣れた彼女の香りではなく、胸糞悪い甘ったるい香水の臭いだったことを思い出し、あるひとつの答えへと辿り着く。
しかし自分で考えたくせに気に食わないその答えの真相を探るため、青峰は幼馴染でありファミリー随一の情報通である桃井の元へ足を向けたのだ。




(俺の知らないアイツなんて気に食わねぇ)





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