965 | ナノ


黒子は妄信的だと以前に言われたことがあったが、それは自分でも自覚はあった。
愚かなことだとは思うが、誰だって神格化したものには傷などついていないだろう。黒子とてそれには例外ではなく、黒子が神格化した相手は赤司であった。外見も中身も特殊な友人が周りに多い中、赤司は歳は同じだし体格だって黒子と大差があるわけでもなかった。だが赤司は黒子が半ば諦めかけていた自らの存在のみならず、その能力を見出し導いた。もちろん黒子自身の努力というものもあったことも認めるが、黒子本人が必ずと言っていいほど一言目には赤司君のおかげ、と言うのだろう。それは世辞でも謙遜でもなく、ただただ純粋に赤司に対する憧憬。
だが普通の信仰と違うところがあった。ただ大衆の神の前で膝を折り祈りを捧げるのではない。神が自分以外に幸福を分け与えることのないよう、蛇のようにとぐろを巻き傷つけぬ程度に包囲する。

「赤司君」

元より自分から積極的に誰かに話しかけるタイプではなかったが、黒子は赤司には別段懐いていた。なついていた、というよりは執着していた、と言った方が意味合いとしては正しいのかもしれない。

「さっきのパス、すみません。少し軌道がズレてしまって」

親鳥にくっつく雛鳥のようだ、とも比喩するものもいたが、少し目線を変えて見ることができる者から言わせればそれは勘違いというものだった。そんな可愛いものでは決してない。

「いや、あまり絞って出しても動きの誤差でキャッチしづらくなるかもしれない。ならば少しくらいズレた方が確率としては良いだろう」

黒子は目で語るタイプだったが、少し彼を知っているものがその目を見れば少なからず理解しただろう。赤司に対する、まるで雲の上の神を崇めるかのような恍惚じみたその目に。
信仰深い者は時折、狂気に駆られた行動をとることがある。
神を崇拝し過ぎるせいか、あるいはその神の見たくない汚らしい側面を知ってしまったせいか。