一人じゃ息も出来ない癖をして | ナノ


線引きをすることは、昔から得意だった。特定の相手と仲良くするわけでもなく、かといって周りから離れすぎることもなく。そう言った意味で自分は、とても不器用な人間なんじゃないかと何度か思った。
そして、誰かに助けを求めるなんてことも自分には、縁の無い話だった。



「ん…、ふ。ぷぁっ」

湿度の高いこの空間で長く深く口腔を貪られ、頭が酸欠でぐらぐらする。

「っ痕付ける、な」
「見える所には付けてねーだろ。何なら首にでも付けてやるか?」
「…っ、は…ぁ」

背中に直に当たる壁の冷たさが酷く痛かった。肌にちくちくと触れる髪が、今目の前にいるのが全くの別人だという現実を叩きつけてくる。
シャワーのノズルから滴る水滴の音が嫌に耳障りで、ぼんやりと思考を浮かせる。
――――なんで、こんな事してるんだろう。


黄瀬が入部し、その後直ぐに頭角を現した。どんどん技術を吸収して、一軍入りも間近になっていた。本人も楽しんでバスケをやっているようで、部活後毎日のように青峰に1on1を頼み込んでいた。青峰もとんだ大物を拾ってきた。
恐らく次の一軍へ上がるためのテストにもパスするだろう。そして、黄瀬の得意とする技。それが問題だった。
相手の技を模倣する、それは灰崎の能力と酷似していた。ただ似ている、というだけなら問題も無いだろう。だが当の二人はそのことに気付き、黄瀬は自分と同じような能力を持った灰崎が果たして自分よりも強いのか興味を持ち、そして灰崎はそのプライドの高さから、同じ物を持つ黄瀬を気に入ってはいなかった。
一度黄瀬が灰崎に挑戦状を叩きつけたが、その時黄瀬はまだ発展途上。身体能力で勝っていた灰崎に惨敗を期した。黄瀬は”模倣”で終るが、灰崎は違う。”強奪”といっても良い位に、元の持ち主からその技を奪い取り自己流にしてしまう。だがそれは過去の事だ。今となっては、結果論から言ってしまえば黄瀬が勝るだろう。それを灰崎が側で見て耐えられるだろうか?赤司の出した答えはノーであった。
もしそれをずるずると引きずれば、いずれは灰崎自身だけでなく、黄瀬を始めとするレギュラー勢にも影響が出る恐れがある。そうなる前に切り捨てなければ。



そうした考えからの、赤司本人から直接の退部宣告であった。勿論灰崎がそう簡単に納得するとは思わなかった。

「で、俺が黄瀬に負けることになるって?」
「結果的にはいずれそうなる」

赤司の胸ぐらを掴んだまま睨みつけていたが、ふと何かを思いついたように口に弧を描く灰崎。

「…はっ、良いぜ辞めてやるよ。何だかんだでお前の言ったことは当たるからな」
「……」
「でもよ、それだけで俺がはいそうですかって言うとは思ってねぇだろ?」

やはり、まだ何かあるか。僅かに眉を寄せ灰崎の真意を測りかねる赤司。灰崎は体勢を更に少し下げ顔を赤司の耳元に近づけると、至極楽しそうに吐き捨てた。

「お前を抱かせろ」

あの時みたいにな。
その一言で、赤司が折角忘れようとしていた忌まわしい記憶が掘り起こされる。奥へ奥へと押し込めて二度と上がってくることの無いようにしていたのに。当時の記憶がフラッシュバックし、赤司は目を見開き震えかけた自分を拳をきつく握りしめることで抑えた。
じわり、と嫌な汗が滲む。

「は、ぁ…っぁ」

ずるりと中から引き抜かれ、赤司は耐え切れず床に頽れた。

「休んでる暇はねーぜ?征十郎」

顔を下から掬い上げられ、口の中に指を捻じ込まれる。そのまま上顎を擦られ、舌を掴まれ好き勝手に弄られ軽く引っ張られる。

「、あ、ふぁ?は…ふ、ぁ」

朦朧とする意識を弄られている舌に向けていると、頬に未だ怒張した灰崎のモノが擦り付けられる。退部を了承する代わりに、一度だけ好きに抱かせることを了承した。前に携帯で撮られた写真のデータを削除するというのも条件に入れて。
もしその写真を紫原にでも送られたら。
もう少し、もう少しで全部終わるんだ。今年一年で全中三連覇が成される。それまで耐えれば。
奉仕を要求する灰崎。早く終わらせれば、満足させればこの吐き気がするような事からも解放される。赤司は恐る恐ると舌を這わせ、少しづつ口の中に収めていく。

「んっ、む…んぅ…!」
「歯、立てんなよ」

半分ほど入ったところで赤司がえづけば、灰崎は口の中の感覚に軽く身を震わせると赤司の頭を固定し、自分から動き始める。口の中の奥深くまで侵略され、呼吸が出来ない。えづく赤司の口内に射精すれば、入りきらない精液が零れ、射精したまま口から抜いたことで赤司の顔にまで吐き出される。

「ぅ…ぇ、げほ……っぁ」

喉に注がれたことで多少飲み込んでしまった赤司は粘つく感覚に咳き込む。シャワーを浴びたまま事に及んだので髪はぐっしょりと濡れ、更に今は全身に精液を被っている状態である。その蠱惑的な赤司を見下ろし灰崎は言いようのない征服感を感じた。
いっそのこと、このまま赤司を壊して閉じ込めてしまおうか。キセキから赤司を切り離し、自分のモノにする。
強奪癖のある灰崎が何度も奪い損ねた物、それが今こんなに近くにあるのだから、繋いで以前赤司がそうしてたように飼ってしまえば良いのではないか。灰崎はそうも思ったが、またこうも思った。
赤司を囲ったところで十中八九、自分の望む赤司を手に入れることはできない。こうして誰かのものであるから意識を向けられ欲しくなるのであって、いざ自分の物になれば、きっと赤司の目は誰をも移さなくなる。

「あ、や。んっんんン……!!」

赤司を立たせ壁に縫い付け背中を向かせると、灰崎は再び赤司の双丘を掴みナカに割り入れる。掻き分けられる感覚が襲い赤司が冷たく堅い壁に爪を立て耐える。
灰崎は赤司に覆いかぶさり、肩に噛みつく。

「んっ…あっ、あ、あ…!」

後ろから深く挿入され揺さぶられると、赤司からは切なげな声が漏れる。
シャワー室の熱気に浮かされた頭で、赤司はただ終われ、終われとその言葉を繰り返していた。時間が経てば、今こうやって望まれもしない相手に抱かれていることも快楽に流されていることも全て過去になる。
下を向いていることで涙が簡単に伝うことは無く、視界がぼやける。口から出る自分のものだとは思いたくない声や自分を抱く腕も、そして灰崎が赤司を犯しながら吐く愛の言葉も、赤司には酷く遠い事のように感じられた。



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