零式 | ナノ

 砂糖菓子にクリームを添えて

クラA



人は須らくして意外性の塊である。誰もが外から見たままのことをしているわけではないし見たまま感じたままの人格でもない場合が殆どだ。
しかし流石にこれはないだろう、という人物に限ってまったく、理解さえしにくいようなことはあるものである。


0組の特徴である朱を基調にした豪奢な作りの教室。その重厚な扉を開けてエースは入ると、教室には誰もおらず、モーグリが教科書の整理をしているのみであった。

「クポ?エース、どうしたクポ?」

ふよふよと浮きながら問いかけてくるモーグリ。

「いや、ちょっと裏庭に行こうかなって」

今日は天気も良いし任務も入っていない。
チョコボ農場に行くのも良いかと思ったのだが、何となく今日は裏庭でゆっくりしようかと思ったのだ。

「クポ!う、裏庭クポ?今はちょっと…」

何故か急に慌てだすモーグリ。一体どうかしたのだろうか。

「?今はなにか駄目なのか」

「クポッい、いやそんなことないクポ!あ、でもそんなことあるクポ…?」

言っていて自分でも混乱してきたのか、魔導院の中でも年若いというモーグリは先ほどよりも上下左右に揺れながら慌てている。

「落ち着け、モーグリ。一体…、」

「お、エースじゃないですかい!」

モーグリを宥めようとして近づくと、ふと裏庭に続く扉の前に、クラサメがいつも連れているトンベリがじっと座っていた。
それと教卓の影に座っていて気付かなかったが、アリアがトンベリに直接触らないものの、興味ありげに見つめていたようで、エースに気付くとその独特な口調で元気に挨拶をしてきた。

「トンベリ…?なんでこんなとこで一匹だけ」

トンベリはいついかなる時でもクラサメの傍にいた。それがこのようなところで何をしているのだろう?

「それはクポ…」

「ま、裏庭に行ってみりゃあ分かりますこった」

にししと笑うアリア。行ってみれば、というがしかし見るにトンベリはこの扉の前に座っている。何も言わないトンベリは、武器をいつも持っているということもあり、何気かなり怖いのだが。

なかなか一歩踏み出せずにいると、じっとこちらを見て、何かを考えているらしき様子のトンベリ。
少し経ち、トンベリの中で何か結論が出たのか、扉の前から退いた。
通っても良い、ということ何だろうか。にこにこ笑うアリアと未だあたふたしたモーグリを不審に思いながら扉をゆっくり開ける。

爽やかな風が吹き込み、いつも誰かが世話をしてくれているお蔭で枯れることなく瑞々しく咲き誇っている花のいい香りが鼻を擽る。
暖かな日差しが降り注ぎ目を細める。なんだ、誰もいないじゃないか。
一体なんだというの……か。(嘘だろ……)なんだろう、見てしまった。誰もいないと思いベンチに近づいたが、誰もいないは間違いで確かにいた。

しかも、本人のイメージとはかけ離れた状況で。

「隊長…」

ベンチに座り、少し俯きがちに恐らく眠っているであろうクラサメ。
その姿はエースにとっては十分すぎるほど衝撃的だった。いつも厳しく、自らにも他人にも厳しく接するクラサメ。
だが彼のストイックさは多くの候補生に支持されているのも事実で。エース含め0組はクラサメの優しさを個人で垣間見たことがある数少ない人間なのではないのだろうか。

しかしどうしたものか。クラサメのことだ、一歩でも動いて音を立てれば起こしてしまうだろう。
だが、ここからでは俯きがちなため、本人の寝顔が微妙に見えない。

ほんの好奇心だ。

そろそろと足を踏み出し、ベンチに近づいていく。余程深く眠っているのだろうか、どうやら起こしてしまうことは無かったようだ。
そのままクラサメの隣に腰掛ける。これでも起きない。変に緊張してきた。心臓の鼓動が早まる。

(隊長もこんな穏やかな顔するんだ…)

顔を覗き込むと、閉じられた目に規則正しい浅い呼吸音がやけに耳に響き、普段よりも柔らかい雰囲気に好奇心が更に増幅した。ふと手をゆっくりとクラサメに伸ばし、普段マスクで隠れている顔に触ろうとする。が。

「っえ!?」

伸ばした手はいきなり動き出したクラサメの手により掴まれ、そのまま引っ張られクラサメに倒れこむ形で終わった。

「…っ」

いきなりのことに体制を立て直す暇もなく。

「この程度も避けれないとはな」

顔一個分上から降るマスク越しの声。ぎこちなく上を見れば、完全に開いた碧の瞳とかち合う。

「たい、ちょ」

まさか、最初から起きていたのか。
そうすると今までの自分の行動すべてが筒抜けになっていたということで―――。
なんだか無性に恥ずかしくなってきて、顔に全身から熱が移ったかのように熱い。

「まさかそちらから近づいてくるとは思わなかったが」

声音は変わらないが至近距離で聞けば、この状況を楽しんでいることが分かる。

「あ、アンタ…っ」

倒れこんだことで、エースは今クラサメに抱きかかえられている状態である。がっちりホールドされているので逃げることも、離れることもできない。
自分から行くのはよかったが、いかんせんこの距離はかなり心臓に悪い。
すっかり相手のペースに乗せられたことが不服なようで、せめてその意思をにらみつけるという形にしているのだが、クラサメの胸辺りからの睨みは、只の上目使いにしかなっておらず意味を成さない。

「どうした。もう終わりか?」

明らかに優勢に立たれ反撃の機会を失った。何かクラサメに一矢報いることはできないのだろうか。金糸に擽るように触れるクラサメ。

「ならもう少し付き合ってもらおうか」

「な…」

そう言うとさっきよりも深くエースを抱き込むクラサメ。このまま、また寝るとでもいうつもりだろうか。
冗談ではない、只でさえクラサメの体温と心臓の鼓動が伝わってくるというのだ。
寝れるわけがない。

最後の抵抗と言わんばかりに、エースはクラサメの肩を引き、膝を立たせクラサメの目蓋に唇を押し付ける。流石のクラサメもこれには面食らったようで。

「仕返しだ」

悪戯が成功した子供の様に、してやったりといった感じの様子のエース。

「あんたの貴重な顔も見れたし」

いつもは大人びているエースもこう見るとやはり子供である。しかし、それに流されるほどクラサメも子供ではない。

「……今のは煽った。ということで良いんだな?」

「なっ、そんなこと誰も……」


結局優位に立つことが出来なかったエース。

エースの休み時間は、クラサメの充電タイムとなったそうな。




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りん様リクエストでクラAです
クラAは甘々でも泣きそうなくらい本編切なすぎて...エース君にとっての大人がクラサメで子供の部分を出せる数少ない存在だったらいいなぁ、とか思いました><
クラサメは中々のSだと信じる^o^
りん様リクエスト有難うございました!!



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