零式 | ナノ

 無垢にあふれるアニュスデイ

KとA/ほのぼの





鼓膜を擽る心地の良い声に、閉じていた目蓋を開き意識を浮上させる。どうやら球形のつもりが、そのまま寝入ってしまったらしい。
施設にいたときは一つだろうと年下の個性的すぎる兄弟達を纏めていたが、魔導院に来てから少し緩んでしまったのだろうか。

それよりも自分を優しく包んでいるこの腕と、聴き慣れた歌声。視線を少し上げる。金と銀の間のような不思議な色をした睫毛に縁どられた綺麗な瞳は、残念ながら閉じられていたが寝ているわけではないらしく、形の良い唇からは子守唄が紡がれている。
マザーが歌っていたものではない子守唄。どうやらエースが保護される前、本当の母親が歌っていた歌らしく、実母の顔は思い出せないというのにその歌だけは覚えていたらしい。その子守唄はすべてのフレーズを覚えているのか、よく小さい頃は他の兄弟がその子守唄をせがむほどだった。
キングもその歌は気に入っていた。というよりも、キングは単にエースの声が好きなだけだったのだが。いつまでもこの唄を聴いていても一向に良いが、折角の綺麗な瞳が近くで見られないのは何とも歯がゆい気持ちだった。エース、と一つ呼びかければ、唄はぷつりと途切れ、目蓋が開き灰がかった青い瞳が自分を捉える。
トルマリンのようなその瞳が自分にだけ向くことが、内心キングはとても嬉しかった。武器を選んだ理由にもある通り、キングは自分のことをただの面倒くさがりだと思っている。どんなに単純でも、それで守りたいものを確実に守れるならそちらの方が良いに決まっている。

施設にいるときから、エースはこうしてキングの為にだけ歌うことがあった。いつも頼られる側のキングが珍しく肩を預けるのがエースで、他の兄弟達もそれを分かっていてその時だけはエースに子守唄をせがむことは無かった。

「キング」

「いつからいたんだ?」

少し前、そういうエースにそうかと返事を返すと、頭の上の方でピヨッとなんとも気の抜けるような鳴き声がした。ヒヨチョコボは人懐っこく近寄ると、エースの目の前、キングのちょうど頭上辺りにぽすんと座り込んだ。ちょこんと目の前で小さな黒い瞳をくりくりと動かしぴよぴよと鳴くその姿に、エースは思わず吹き出してしまった。

「?」

キングは何が起こっている変わらずにいると、エースはキングの少し硬めの髪に顔を埋めるようにすり寄った。くすくすと笑うエースに、何が何だか分からないといった風のキング。中途半端に起きたせいか、そんなにひどくはないもののなんだか急に眠くなってきた。体勢的にはいつも逆なのにと思いつつ、キングはエースの好きにさせていた。
ただ単純に、考えることを放棄したわけではないが、昔からただ自然と思うから行動に移しているだけだ。こんなにも単純で面倒くさい自分を、その細い身体で包み込んでくれるエースを一番最初に護りたいと思った。

「エース」

そうはいっても、すでに自分は幼い時から守られていたところもあったか。

「もう一度歌ってくれるか」

染み込むように入ってくるエースの子守唄は、昔のようにキングの意識を暖かく抱いていった。







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麻時様リクエストでKとAほのぼのです
KとA指定とのことで、勝手に×にしてしまったんですが大丈夫でしたでしょうか・ω・;
キングは性格が安定しすぎていてなんだかエースがめちゃくちゃ甘えやすく...流石オトン
麻時様、リクエスト有難うございました!



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