零式 | ナノ

 意味を成さないからそのちいさな声帯をつぶしたんだ

これの続き





耳障りな金属音。重いだけで清潔感だとか豪奢さなど微塵も感じられない鉄の扉を開け、そして閉める音。暗闇に慣れた目は扉の隙間から差し込んでくる外の光に過剰反応し、思わず手で光を遮った。細く白い手首には痛々しいほどの重々しさを放つ手枷がじゃらりと鈍い音を立てた。よくよく見れば確認できるくらいだが、同じように首にも枷がはめられている。ちょうど、軍用クァールを繋いでおく時のような、飼われる者の証。鎖が小さく音を立て、繋がれた者、エースはこの外と遮断された空間に入ってきた人物を睨みつける。いや、その行為は既に逃げることが叶わぬ状況と嵌められた枷によって威力など無いに等しい。暗闇の中でもその気高さを失うまいとする青い瞳に、エースに枷を直接嵌めた張本人であるカトルは、冷たく見下ろしながらも、自らの中で征服欲が頭を擡げていくのを自覚していた。ゆっくりとした動きで視線をエースに合わせる。それにわずかばかりの虚勢を張っていたエースが本能的な恐怖から身を捩り距離を取ろうとするが、その前に首からつながる鎖を掴まれ引っ張られる。

「っん…!」

申し訳程度にしか着ていない大きめのシャツから覗く、誘うように浮きだった鎖骨にカトルは文字通り噛みついた。歯を立て、線に沿うように肌を吸う。そうすればようやく消えかかっていた痕に塗り重ねるように赤黒い痕が付く。他にもいくつも痕をつけられ、その痕一つ一つがまるで熱を持っているかの様にエースを苛んだ。

「、や、め……っひぁ!?」

拘束が片手だけとはいえ、動かすのも億劫な両手でカトルの肩を押すがするりと差し入れられた手で腰をゆるゆると擦られ、離そうとするつもりがぎゅうっと掴むだけだった。下腹部の疼きを認めたくなく、カトルを足掻き程度に睨んでも、カトルは歯牙にもかけない。

「エース」

鎖を引き耳元でその名を呼べば、抵抗を見せていたエースの体がびくりと跳ね、今までの抵抗が嘘のように止んだ。その反応にカトルは口元を釣り上げると、人形のようになってしまったエースを組み敷いた。




「っあぁ…っ、や、んやぁ……!!」

内壁を擦り上げ、エースの中を何度も突く。これまでに何度も抱かれたことでエースの体は完璧にカトルに掌握され、カトルの動きに合わせ面白いように敏感に反応を示した。

「前に比べて、随分とはしたない声を上げるようになったな」

「ゃぁっ、め、ら、めぇ!じゅん、し、ょぉ…っ」

眼からぼろぼろと生理的な涙を流し、只快楽に流されるだけのエース。一度戦場で見たあの気高い子供が、自らの下でこのような痴態を晒していることに、くらりとした目眩に似たものを感じながら、ある光景を思い出す。

捕縛した後、軍部の魔法研究に憑かれた研究者達の格好の実験対象となったエース。即戦力が求められている状況の中一番簡単で確実な方法が、先ずは朱雀に関する記憶を全て消去する、というものだった。そんなことが出来るのだろうかとも思ったが、感受性が豊かな子供であればあるほど記憶の操作はしやすいのだそうだ。その言葉通り、エースの記憶からは存外簡単に朱雀の事は消えた。その後も実験は重ねられ、試験的にエースを戦場に出した。記憶の確認のため、悪趣味ではあるが0組のいる戦場にだ。戦場に出る時に精神に鍵をかけるような洗脳をされたエースの戦い方は、初めて直接見たときの魔人と言われるようなものよりも尚人間からはかけ離れ、人の形をした兵器の様だった。精神に蓋をされることで、一個小隊分以上の働きをするエース。
そんなエースに0組が対峙した時のことを思い出すだけで、カトルは内側にある黒いモノが満たされる感覚だった。必死の呼びかけにも眉ひとつ動かさず、自分たちを攻撃してくるエースに彼らは珍しく狼狽えていた。彼らにとっても大切な存在なのか、殺すような攻撃はしてくることは無く、まるで奪い返そうとでもいう様な。その様子を少し離れた所からガブリエルに乗り見ていたカトルは、試験的な、という理由にしてエースを回収した。無表情で猛攻を繰り出すエース。ガブリエルから降り、一言エース、と名を呼べば明らかにそれに反応し攻撃をぱたりとやめ、カトルの元に駆け寄る。名前、なのだ。エースの記憶を操作する際、名前を鍵とした。自分の補佐というものにすり替え、自分の声にしか反応しないように。エースがいることで不用意な攻撃が出来ずに手をこまねく彼らの憎悪の視線が心地よかった。



「ひぅっ、ぁ、や、あぁぁぁぁ!!」

一際高く声を上げ体を弓なりに反らせるエース。ある一点を掠めたことで、頭が真っ白になりそうなほどの快感が電流となってエースの体を駆け巡った。

「ふぁっ、そこっや、あ、やらぁ…!」

「嫌だ?本当にそうか?」

「あっ、あぁっ!ふぇ、やら、きもち、いぃ…っ」

既に知り尽くしたエースの身体。じゅぷじゅぷと何度もその一点を付けば、エース自身からとろとろと溢れ出す蜜が垂れ、更に結合部の滑りを促進させた。何度も角度を変え付けば、いつものように自ずと自分から腰をゆらゆらと揺らすエース。

記憶をなくしたとはいえ、カトルに対する敵対心だけは残っていたようで、戦場に出ていないときは拘束でもしていない限りは何をしでかすかわからなかった。だがこうして肌を重ねるうちに、その感情も残りの記憶と共に消えていくようで、今ではカトルの事をすっかり上司だと思い込み准将と呼ぶほどだった。快楽に流され曖昧な記憶もどうでも良くなり、今この時エースはただカトルに素直なだけだった。きゅうきゅうと締め付けてくるエースに、カトル自身も限界が近づいてきた。

「っ、エース」

「ぁ、やぁっ……ひ、あ、あぁぁぁ!!」

結合を一際深く根元まで銜え込ませると、奥のしこりをぐりりと強く突いた。きゅうっと締まり圧迫を加えられ、カトルはそのままエースの奥に欲を吐き出した。

「ひぅ…ん、ぅ」

蹂躙していた物がずるりと抜かれ、注ぎ込まれた熱い熱に身を震わせ意識が飛びそうになりながら、エースはとろんと惚けきった眼でカトルにキスを強請る。それに応えてやり舌を絡ませる。
記憶が完全に消えていようが消えていまいが、この枷を外す気は無いのだろう。至極満足そうに、カトルは唇を吊り上げた。



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