零式 | ナノ

 ひとつとふたつ

現パロ/双子設定



男女の双子というものは、あまり双子という扱いを受けられないものだった。容姿が似ていれば話は別だろうが、少なくとも自分たちは親しい者や家族からはやっぱり双子だ、と言われることもあるがやはり何となく似ている、という程度だった。だがそんなことは当の本人達にはどうでも良いことである。幼い頃から仲が良く、デュースが楽器を弾いてその音色に合わせてエースが歌うなどの遊びをよくしていた。歳を重ねても二人の仲の良さは変わらず、二人の関係を全く知らない者から見れば仲睦まじいカップルに見えることだろう。しかし二人とも互いに対する感情は恋人に向けるような恋情ではなく、確かに家族間の強い親愛であった。一卵生ではなくとも、根底の部分は良く似ているものである。

「そういえば」

テーブルにカップを置いたデュースが、何かを思い出したように切り出した。二人は家事をそれぞれ分担しており、今日はデュースが夕食の当番であった。それでも結局弁当などを作るのは二人一緒なのだが。両者の穏やかな気質からなのだろうか。

「男女の双子って、前世で添い遂げられなかった恋人が転生したものらしいですよ」

やはり女性はこういったことに強く関心を示すのか、双子に関する何かと神秘的な逸話をエースはあまり興味が無かったが。

「前世で?」

デュースから受け取ったカップに口をつけながらエースは問うた。それはまた随分とロマンチックなことを言い出したものだ。

「はい。ということは私とエースもそうだったんじゃないでしょうか?」

間違いなく二つの魂なのに、まるで一つの魂として生まれたように互いを必要とし、いつの間にかそれぞれの隣が定位置となっている双子。

「僕たちが?」

前世で添い遂げられなかったから、その代わりとでもいうのか。しかし恋人であるなら双子というのは逆に矛盾しているのではないのだろうか。そんな考えても仕方のないことを頭の中で展開するエース。

「でも…僕とデュースは僕とデュースだ」

エースは特に深くは考えずぽつりと軽く零した言葉に、デュースはほんの一瞬目をぱちくりとさせ、そして柔らかく微笑んだ。

「ふふ、そうですね」

前世が何だろうとどういった関係であろうと、今自分の正面にいるのは、二つに分けあって生まれたきた唯一人だ。言葉を交わすより、手を繋いで隣に座るだけで笑えるし泣ける。理由も確証もないけど、親より友達よりも、もしかしたら恋人よりも共に居たいと強く想う相手が双子なのかもしれない。

「すみません、変なこと言ってしまって」

「いや、いいよ。そうだデュース…」

「はい?…あ、もしかしてコーヒー、エースも」

そう言い照れくさそうにマグカップを両手で少し持ち上げるデュース。実は二人とも甘党でコーヒーのブラックは駄目だったのだ。デュースがうっかり砂糖を入れずに持ってきてしまったようだ。道理で苦いと。話に気が向いて気付かなかった自分のうっかりでもあるが。

「デュースも入れてなかったのか」

「はい…」

ばつが悪そうに苦笑しながらシュガーポットを持ってくるデュース。二人分のカップに同じ量の砂糖を入れる。

「私達、やっぱり似てますね」

そう言いおかしそうに笑うデュース。隣の笑顔にこちらも思わずつられてしまった。

「そうだな」


凄く嬉しい。たったこれだけで二人分の幸せ。



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