零式 | ナノ

 ほら、簡単でしょう?





カヅサのあの奇妙な研究に協力してからというもの、なんだか疲れやすくなったような気がする。風邪に似たような、何だか変な感覚。微妙に体が重いのは気のせいだろうか。
後日の任務にも差しつかえるといけない、今日は早く休んだ方がいいだろう。

「おっじゃまー、お。予想通り何も無いんだな」

休んだ方がい…い。

「ってナギ!?なんでここに」

驚くほどに何の音もなく忍び込んできたナギを危うくスルーしてしまうところだった。

「鍵かけてあった筈だけど」

「なーに言ってんの。諜報部のナギ様にかかればそんなもん」

「立派な不法侵入って知ってて言ってるのか?」

要はピッキングして入ってきたという事か。人が疲れているときに来たこのおちゃらけた訪問客にげんなりとした。
さっさと追い出してしまわねば。

一応、自分と彼はその、所謂そうゆう関係ではあるが、こんな時間に人の部屋に不法侵入するなんてよっぽどの裏の任務かくだらない理由かのどちらかに決まっている。

とにかく自分が得するような状況ではないことだけは、確かだ。
断言できる。

「とりあえず出て行ってくれ」

「ちょっとちょっと、それはないでしょ」

細身ではあるが身長のせいで追い返そうとナギの体を押してもなかなか前に進まない。

「なにか任務でもあるのか?」

もし本当に任務だったのなら、人の部屋に勝手に(しかも鍵を開けて)侵入したことには目を瞑る位の措置はしてやろうと思った。

「いんや、エースの可愛い寝顔でも拝みに行こうかなって思って」

前言撤回。
なんとしてでも追い出さねばもしかしたら自分の貴重な睡眠時間が危機に晒されるということもあり得る。この体調でそれだけは勘弁してほしい。

「…僕は今それどころじゃない。わかったらさっさと」

「体が重い、ふらふらする、たまにボーっとしてしまう」

ナギを再び押しかけた手が止まる。なんだって?今、ナギが言ったことはすべて自分の今現在の体に起こっている異常である。

「正解?」

そういいいつもの誰にでも好かれるような、陽気な笑みを浮かべるナギ。どういう事だ。なぜわかった?訳が分からないといった顔をするエースに、ニコリと微笑んで真実を語りだすナギ。

「それ、カヅサに嗅がされてる薬の副作用だぜ。まぁ数日間風邪に似た症状が出るだけだし、症状自体も軽い物だしな。ただ…」

そう言葉を切ると、諜報部ということは嘘ではないというような軽い身のこなしで、くるりと体を素早く反転させると既にふらつき気味のエースをトンと軽く押した。
すると糸が切れた人形のように、いともたやすくエースはベッドに座り込んでしまう。そのままするりと迫ってきたナギは、エースの方手を取りベッドに縫い付ける。

「なっ」

ろくな抵抗もできないまま近づくのを許してしまった。起き上がろうとしたが、頬に添えられた手によって逃げることが困難になり、くいと上を向かせられるとそのまま口づけられた。

「…んっ…む…。!」

ぬるりとした舌の感触とともに、何か異物がナギの口内から移された。舌で押し出す暇もなく、その何かを飲み込んでしまった。
すると意外にもあっさりとキスから解放された。小さくリップ音を響かせながら離れると、軽く唇を舐めてナギが問いかける。

「その気になってきたか?」

一体何を飲まされたのか。しかしそんな訳がないだろう。睡眠を死守するために、どうにか理性をかき集めて抗議を試みた。

「そん、なわけ……、っっっ!!?」

瞬間、体がびくんと大きく跳ねた。なんだ?爪先からぞわぞわと、猛スピードで何かが体を駆け巡った。次いで溶けてしまいそうなほどに甘美な疼きが下肢に広がる。顔がかあっと熱くなる。これ、は。

「な、に…ッぁ?」

体を震わせいきなり襲ってきた正体不明の何かに必死に耐えていると、耳元でいつもより少し低く、ナギの声がささやかれる。

「さっきの続き。確かにただの風邪の症状なんだけど、実はちょいとばかり、こういった薬に対する免疫が弱まるっぽいんだわ」

そんな事はどうでも良い。問題は何故、エースがカヅサの研究に協力しているのをナギが知っているのかということである。

「俺、確かにカヅサは苦手だけど、交流が無かったり仲が悪いって訳じゃあないんだよなぁ」

「ひぁ……!ゃ、やぁ」

そう言いエースの頭を愛おしむ様に撫でるナギ。しかし今はそれにさえ敏感に反応してしまうほどで。果たして薬が強いのか、それともナギの言ったようにカヅサのおかげでこんな事になってしまっているのか。びくびくと面白いほどに反応するエースに気をよくしたナギは滑らかな頬の感触を楽しんでいた。

「っん」

「エース、可愛い」

ぶるぶると震え、得体の知れない感覚に涙を零すエースを確実に追い詰めるナギ。エースは段々、ナギが何故自分の部屋にいるのか、何故こんなことになっているのかなんてほぼどうでもよくなっていたし、考えられない程意識が朧になり先ほどまで保っていた理性も崩れ落ちた。

「ナ、ギ。……な、ぎぃ…っ」

すっかり従順になり子猫のように縋り付いてくるエースに、自分でやっておきながら実は予想以上の効果が出たことに内心少し驚いていたナギは、ここ数日自分が任務でエースに触れていなかったということもあり、見栄程度の理性などかなぐり捨てた。



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