零式 | ナノ

 それが最初で最高の自惚れ

マキナ→A




軽く腕を伸ばしてみる。しかし自分の背よりも高い位置にあるその厚めの本には、背表紙に触れることもできずに伸ばした腕は空しく下ろされた。クリスタリウムにて目的の本を探していたエース。だが目的の本を見つけたのは良いものの、その本のある位置が高く、自分の背では届かないのだ。普段は気にしないがこの時ばかりは0組の同年代男子の無駄に高い身長が羨ましくなる。無駄な抵抗と分かっていながらも先ほどよりも腕を伸ばし、リベンジを試みようとしていたが。ふいに横から伸びてきた腕により今まで散々自分が苦労した物がひょいと簡単に取られてしまった。

「これ、だよな?」

声のした方を見てみれば、それは最近同じ0組になったマキナで。ナインやキングほどではないが、マキナもエースからしてみれば十分に背が高い部類で。はいと言われ渡される本。確かにこれが欲しかったのだが。なんだか悔しい。少しだけ。

「……ありがとう」

しかしマキナが通りかからなければ取れなかったわけで。そこは事実なので礼を言い本を受け取る。資料を探して入ったクリスタリウムで、朱いマントを纏ったクラスメイトが目について何となく目で追うと、恐らくとりたい本に手が届かない、という状況で。それもぎりぎり届かないというところで、何を思うでもなくその本を手に取って本人に渡した。
そこまでは良かったのだが、その本人、エースの様子がなんだか不満そうで。もしかして違う本だったのだろうか。そう一瞬思ったが礼を言い受け取ってくれたところを見ると間違いはなかったようだ。そういえば。自分は特に問題なく取れたが、エースが取れないということは今更ながらエースとはかなり慎重に差があるのだと、今更ながら気付いた。頭一つ分、と言っても良いくらいには差が開いているエース。見下ろしじっと見てみると、長めの睫毛が伏せた目に影を造っている。
――――なんだか可愛いな。
幼めの顔に人形のように端正な顔立ちをしているエースにそんなことを思ってしまう。最初の第一印象から綺麗な顔だな、とかは思っていたがこうしてじっくり見ているとなんだか妙な気分だった。受け取った本を持ち、その場から立ち去ることはせず目を伏せがちに何かを考えているエース。その横顔が授業中ふと外を見ようと顔を向けると目に入る横顔と重なった。それを見た瞬間、外の景色などどうでもよくなってエースをジッと見ていた、なんてことが良くあったということを思い出した。

「マキナ」

少し思考にふけってしまっていると、エースに名前を呼ばれハッとする。

「あれも、取ってくれるか?」

少し気恥ずかしそうに指をさすエース。指差した方を見てみると先程の本があった高さと、同じ高さのところに何かの図鑑のような本。それを取り渡すと今度は別の本棚のまた高めの位置にある本。そういえば資料探しに来たんだったか。しかし今はそんなことはどうでもよくなっていた。

「?どうしたんだ、なんだか嬉しそうだけど」

「そうか?」

そうなのかもしれないな。何でもそつなくこなすエースのコンプレックス、と言って良いのか分からないが、そんなところを見つけたことなのか。それともこんな誰でもいいわずかなことでも自分が頼られている、ということに自惚れのような嬉しさを感じていることなのか。しかしこんなことで自分が一喜一憂するということは、間違いなく自分は彼に惹かれている、ということではないのだろうか。








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柊様リクエストでマキナ→エースです
エースの周りには無駄に背の高いのばっかりなんでちょっとコンプレックスだったりしたらいいなーとか^^
柊様、リクエスト有難うございました!!



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