それより、アリスは聞き逃さなかった。殺し合いと確かに言ったことをしっかりその耳はとらえていた。
「殺し合いって…。」
心配そうなアリスにドルダムとドルディーが即答した。
「大丈夫だよアリス。」
「心配ないよアリス。」
残念ながら二人が同時に喋ったので、アリスとシュトーレンは「アリス」の言葉しか聞き取れなかった。
「いままで沢山殺し合いしたけど。」
「死んだことは一度もないからね。」
シュトーレンの耳がぱたぱたと動く。
「ケンカするほど仲がいいってことだな!」
それに対し、二人は。
「「んなわけないじゃん、死んで。」」
と声を揃えて返した。少なくとも、仲違いしている時に言うべき台詞ではなかったとアリスは、双子の兜の奥の表情を想像しながら「どんまいね、レンさん。」と苦笑して慰めた。

「さあ、ドルダム。始めようか。」
「ああ、ドルディー。始めよう。」
二人はトリッキーな剣の矛先を互いに向ける。殺意は感じられなかった。顔が見えないだけではない。
「でも待って…今まで死んだことはないって、もしかしたら…「今が」そうなることだって有り得るじゃない。」
更に一層心配そうな顔のアリスにシュトーレンは神妙な面持ちで言った。
「今まで起こらなかったことがそうそう都合よく起こるとは思えないぜ…。」
「…あんた、誰?」
思わずアリスは彼の発言の意図を疑い、かなりフランクな口調になった。
「はああああぁ!!」
「でやあああぁ!!」
二人は掛け声とともに一気に間合いを取り同じタイミングで剣を振った!
「わあ!始まったわ。殺し合いは比喩なんかじゃないのね!」
「すげえ!」
アリスとシュトーレンは逆に感嘆に近い声を上げた。そのあとも吃驚の連続だ。きっとことあるごとに喧嘩をしてきたのか、子供とは到底思えない手慣れた戦いぶり。躊躇いなく斬りかかっているようで、並の兵士に劣らない身のこなし。鎧で守っているからよかったものの、時々確実に人の体でいう急所を狙いに行くところはまさしく「殺し合い」そのものだ。

「…まあ…子供が鎧を着て剣を持って戦うなんてまるでファンタジーだわ。近くで見てるとひやひやしちゃう。」
そんなことを呟きながらアリスはまたも余計なことを思い出してしまいぶんぶんと首を振る。
「…意味がわからない。なんであんなことを思い出しちゃったのかしら。あれは、もっぱら一方的よ。」
鎧に身をかため戦う様をいつかの光景と重ねたのだ。さすがにこればかりは自分を疑った。だが案の定、シュトーレンの言葉に軽く掻き消された。
「…なあ、あいつら俺達のこと忘れてるだろ。」
アリスははっとして再び意識を双子に向ける。
「そうね。戦うときは集中しないといけないから…あ、そうよ。レンさん、あなた随分と冴えてるのね。」
「冴えてる…?」
彼が伝えたい本当の意思は「構ってくれない」ということ。しかし、アリスは違う意味を汲み取って勝手に頭が閃いたのだ。「耳を貸して」とアリスの小声で、シュトーレンは中腰になる。
「あの二人は喧嘩に夢中だから、その隙に逃げちゃえばいいのよ。」
吐息混じりの囁きに若干くすぐったさを感じたのか時折耳が小さく動くも声はちゃんと届いていた。こちらもまた声をひそめる。
「えっ、そんな…いいのかよそんなことして。」
「私達には用事があるのよ。それを無視して強引に誘ったあっち側でしょ。忘れてるならなおさら、私達は悪くないわ。」
アリスの言い分はもっともだった。シュトーレンが彼らと遊びたい気持ちになったとしても、元から遊ぶつもりでここに来たわけではない。忘れてるのも、彼らの勝手なのだから。
「そ〜だよな〜…いつ終わるか、わかんねェもんな〜…。」
半ば渋々といった様子だが、シュトーレンの意思はアリスの思うままに傾いてくれた。
「でしょう?そうとなればさっさと行きましょう。早くけりが着くかもしれないし…。」







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