彼女は更に、羅列した文を口にしながら読み上げた。


「あぶりのとき ねばらかなるトーヴ
はるばにおいて まわりふるまい きりうが
すべて よわぼらしきは ボロゴーブ
かくて さととおし ラースの うずめきさけばん。」
次の行が下にはみ出しているので紙を上にずらすと続きの文字が見えた。きっとシュトーレンはもう飽き飽きしているだろう。アリスも言葉のひとつひとつの意味が理解できないので読んでいても全く面白くなかった。
「わがむすこよ ジャバウォクに ようじんあれ
くらいつくあぎと ひきつかむかぎつめ
ジャブジャブ鳥にも こころくばるべし そしてゆめ
いぶりくるえる バンダースナッチのそばによるべからず
ヴォーパルの剣…。」
読んではずらす行為を繰り返す。ここまできたらこの文が物語形式で成り立っていることは把握したが、やはりわからない。アリスは「子供には難しい言葉」だと解釈して続きを読もうとした。
「そうだ、ジャバウォクの名前がまた出たわね。これってどういうことかな?」
聞いてみるもどうせ彼はこの文すらまともに聞いちゃいないだろうから無駄だと思いつつわずかに期待の眼差しで見上げた。

「レンさ…ん…。」
呼ばれても返事はなかった。口の端から細く赤い一筋の血が流れていた。手のひらから鏡が落ちる。恐る恐るアリスは視線を下げた。落ちた鏡に用はない彼女が目の当たりにしたのは、嫌な赤に染まった腹部から突き抜けた尖端の鋭い金属のドリル状のもの。
「祝復活祭の晩餐が兎肉でーす。」
シュトーレンは何も言わず、いや、何も言えず腹に異物で貫かれたまま崩れるように倒れた。背中には木の長い柄。その後ろ、民族風の質素な服に身を包んだ小柄な少年が死んだ目でこちらを見ている。
こんな人物など今までいなかった。
「あ、大丈夫だよー。俺、人間は食べちゃいけないって常識はあるんで。」
柄の根本を掴み勢いよく引っこ抜く。先は赤黒いもので濡れており、独特の鉄の臭いにアリスは強い吐き気を催し紙を手放して鼻と口元を覆った。言いたいことも、聞きたいことも沢山あるのに。
「う…っぶ、あ…ッ。 」
足に力が入らない。ドリル状のものを地面に突き立てて少年は棒立ちで見据えた。
「あれ?おかしいなー君って国の偉い人ぶっ殺した英雄アリスでしょ?これぐらい慣れっこじゃないの?…ま、いーや。吐くならトイレでねめんどいから。」
アリスは目に力を入れて強く睨んだ。抵抗というよりかは、そうすることによってかろうじて話せる心理状態にまで持ってこようとしたのだ。
「あーでもさすが。もう泣きじゃくりはしないってとこがね。俺はトーヴ…じゃねえわ、名前はスネイキー。君のおかげで「目が覚めた」。」
スネイキーはシュトーレンの背中を踏み越えて紙を拾うとため息をつきながらコートのポケットにぐしゃぐしゃにしてしまった。
「私が…あなたに…何をしたって言うのよ…なんで、レンさんを…。」
「説明はいらないよね。」
踏まれたシュトーレンは、指すら動かなければ虫の息すらもしない。嫌な予感は十分にした。泣きつくのは、後だ。

「読んだでしょこれ。そーゆーことでまあこいつはあとで炭火焼きに…ぶ!!」
背を向けたスネイキーの体が一瞬微かにびくんと動いた。







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