「アリス!これはどういうことだ!?」
そんなことを突然に聞かれても困る。ぴんと真っ直ぐに立っているうさぎの耳は一体何を表しているのだろう。辺りは真っ暗で壁も何も見えない。地に足がつく以外体に触れている感覚がない。だが、ここにいる二人のお互いの姿も自分の姿も鮮明に、はっきりと視認出来るのだ。
「わからないわよ。それはそうと…なんだか、がっかりだわ。」
予想以上に何もない空間にアリスはうんざりした。見えないだけなのだろうがそれでもこれ以上長居しようという気はしなかった。
「更に時間を無駄にしちゃったわ…あら?ドルチェさんは来てないみたいね。」
「来なくて正解ってか?じゃあ待たせてるってことか。戻ろうぜ。」
明らかに足りないもう一人が待つ森へと引き返そうとした時だった。

「わ!なんか落ちてきたぞ。」
シュトーレンの足元にひらひらと一枚の紙切れが舞い落ちてきた。訝しげにアリスがそれを拾う。
「どこから落ちてきたのかしら…上は上だけど。なにか書いてあるわ。」
シュトーレンもアリスも「またか」と言わんばかりの顔をした。だが、違うのは複数の行からなる長い文章が見たこともない不思議な文字で書かれてあったということ。
「これは…どこの国の文字なの?全く、読めやしないわ。でもこれを私達にどうしろって言うの?」
そうだ。解読したところで一体何になるのかが明確ではない。シュトーレンがすっかり思考するのをやめて適当なことを呟く。
「読めたら真っ暗じゃなくなったりとか?」
「頑張ってみるわ。」
迂闊に下手なことを言えないとひしひしと感じた。アリスが早速紙とにらみ合いを始めた。
「アリス…。俺が悪かったからさっさと出ようぜ。」
彼女の肩をつんつんと人差し指でつつくが集中力がまだ高まってないアリスの右手で軽く振り払われた。
「……………ごめん。」
耳が垂れ下がる。地味にしょぼくれたようだ。アリスはそんな彼など全く眼中になかった。
「なぁんか、あれよあれ。これはさっきよりは簡単だと思う。もしかしたらだけど、鏡があったら読めるかもしれない。」
またもや長い耳が上がる。顔に出るより感情に素直なのではないだろうか。
「鏡?でも鏡なんて…ないぞ。鏡の国なのにないって変なのぉっ!?」
今度はもっと大きなものがシュトーレンの頭に落下した。そのまま地面に落ちたものをアリスは拾い上げる。なんと、少し大きめの手鏡だった。木の枠にはめられた面は綺麗に拭かれている。
「なんと都合のいいことでしょう!上に誰かいて私たちの話を聞いていたのかも!真っ暗だけど!」
人の気配などするわけもない。
「おい!俺の頭が割れたらどーすンだよ!!」
迂闊に下手なことを言うのではなかったとつくづく後悔した。上へ向かって怒鳴り散らかすシュトーレンは本当に誰かいるのかと思っている。どのくらいの高さから落ちたか知らないが相当鈍い音がしたのでさぞかし痛かったろう。だが見るからにたいしてこたえてそうにないので、心のなかで「これじゃあ頭が割れるより鏡が割れそうね」と呟いた。
「ちゃんと鏡にも映るみたい。レンさんちょっと持ってて。」
渡された手鏡を頭部を押さえていた手で持つ。
「ほら…この紙を鏡に映すと…。」
アリがま文字の書いてある紙を向けた。するとなんということか、鏡に映し出されたのは常日頃から目にするいたって普通の文字ではないか。
「やっぱりね!この文字は全部反対に書いてあるんだわ。所々見てわかったの。でもこんな長い文なら鏡に映した方が簡単に読めちゃうからね。」
アリスの閃きはここでも大活躍した。あとはほんのひとかけらの運が味方をしてくれたのもある。
「何て書いてあるんだ?」
読めるようになった文字を、アリスは鏡の方をゆっくり目で追った。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -