アリスが腕を組んで一人唸る。
「下の文…前を進む者がどう関係あるかなのよ。前…前…。この文字と…前。文字が、文字の…!!わかったわ!」
早くも閃いたアリスの顔がぱっと晴れる。二人は半信半疑で彼女に視線を向けた。
「ズユビテッ…この文字の前を進んで呼ぶ…読むのよ!」
自分だけは滑舌よく口にできると思ったがそううまくはいかなかった。二人は全く意味がわかっていない。アリスは扉の文字の前に仁王立ちをする。
「ズの前はジ、ユの前はヤ、ビの前はバ、エの前はウ、カの前はオ、テの前はツ、ケの前はク。前に進むということはこういうことなのよ。 」
「ジヤバウオツク…?」
シュトーレンがバラバラの言葉を集める。物凄く得意気に胸を張るが、いずれにせよその文字がなんなのかさっぱりな限りか彼女に称賛を、讃えることなど出来ない。

「ジヤバウオツクってなにかしら。」
解いた本人もひとえに小首を傾げる始末だ。
「開けゴマみたいなもンだろ。」
更に彼女の頭を悩ませた。生憎にも聞いたことがなかった。そんな中、ただ一人、ドルチェが扉に寄りかかりながら不安そうな表情を露にした。
「ジャバウォック…なんでここであの化物の名前が?」
意味深な呟きに異邦人二人が彼の方を向いた。

「ジャバウォック?化物?」
「化物というより、破滅王って言われてるけどね。」
しかし、ドルチェはすぐに感情を押し殺した作り笑いで両手を広げ体裁も繕った。格好と相俟ってぎこなちなくも様になっていた。
「昔々、ジャバウォックという化物が現れ、とてつもない力で沢山の国をやけのはらにしました。しかし、一人の勇敢な戦士により倒されどこかに封印されました…という伝説。」
「伝説かよ!!」
シュトーレンが間髪入れずにツッコミを入れた。想定内の反応だったのかドルチェは笑みを崩さない。
「この国に伝わる昔からのお話。でも中には実話説もあったりとうやむやなんだよね。てか、勝手に暴れて勝手にやられてるとか破滅王じゃなく自滅王だよ。」
「面白いこと言うなお前!」
想定外の反応だったのかドルチェの笑みが崩れた。
「でもそれなら、他にももしかしたら、誰かが解いたことがあるんじゃないのかしら?」
アリスが言うにはこれが答えならば森の中にただ立ってるだけの扉なんて目立って見つかりやすいだろうに、偶然通りかかった誰かが正解してしまう可能性が十分あり得るということ。
「意味わかんないんだけどお姉ちゃん。」
年下の出会って間もない少年に鼻で笑われた。
「それが正解かなんてお姉ちゃんが決めることじゃないでしょ?」
「で、でもっ…!」
反論に出るアリスも固く閉ざしたままの扉を見ると、おもわず黙りこんでしまった。

「なァんだ、ハズレか〜…。もう諦めて行こうぜ。退屈したしな。」
期待も答えも外れ、これといってこの場所に用も行きたいという意思もないシュトーレンは一足先に道に戻ろうとした。考えるだけで大分時間を無駄に消費した自覚はアリスが一番感じている。巻き添えにしてしまった分、もう駄々をこねることもせがむことも出来ない。
「…うぅん。わかったわよぉ。…ジャバウォック…か、それも気になる…。」
アリスもすごすご扉から足を引いた。気になることで頭がいっぱいでモヤモヤしてならない。扉の奥の世界、なぞなぞの答え、ジャバウォックの存在。

「聞いたことある。フェールが言ってた通りだ…。じゃあ、なんで?」
極力誰の耳にも入らないよう下を向いてぼそぼそと自分の記憶に問いかけるドルチェ。
アリスがもうひとつ気になったのは、「伝説」と自ら言った彼の「あの表情」だった。








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