「猫さんのお好きなようにどうぞ。あ、でも…。」
仮にも僅かながら恩がある。きっと彼がいなかったら終始混乱したままこの森をさまよっていたのかもしれない。
「痛いのはよしてあげてね。」
それを良いことにチェシャ猫は耳をぴんと立てる。嬉しいという意思表示なのだろうか。なにはともあれ、聞いた対象の承諾が得られたチェシャ猫が早速とフェールの手首を乱暴に掴んだ。
「おわっ、え?何!!痛くないのって逆に何!?うっわああ、離せ!!!」
呆気なく地面に勢いよく押し倒されたフェールはすかさずチェシャ猫の首輪を掴んだりとあっという間に揉みくちゃになった。
「じゃあ私達、行かなくちゃいけないから…もっといろんなお話したかったけど…。」
頬を真っ赤に泣き腫らした顔を逸らす。チェシャ猫が馬乗りになったままこちらを向いた。
「生きてたらまた会えるよ。」
その言葉に、アリスは気が楽になった。笑みがふとこぼれる。
「そうね。」
「どこ行くねん!そいつ使って勝手なことしたら…!」
シュトーレンが目尻を引っ張り舌を出す。
「こんなしょーもねえ森なんかとっとと出ていってやるよ!でもお前いないとわかんない…わかんないぞアリス!」
矛先は結局アリスに向けられた。先程のわざとらしい悪態はなんだったのか。
「あ…そうだったわ…待つ?」
目を擦りながらアリスが聞き返す。これをフェールは逃さなかった。
「こいつをどうにかしてくれたら教えたってもええで!あと鍵や!」
「殺すよ?」
顔をあげた彼の目の前にナイフをちらつかせる。殺意はない。いい加減抵抗されるのが鬱陶しく感じ「人間の世界で相手を大人しくさせる方法を」施行しただけだ。
「ごめんなさい!あっちをまっすぐ行ってください!!」
脅しがきいたフェールが人差し指立てた手を伸ばす。アリス達からしたら左だ。
「ありがとう…じゃあ、あとは猫さんに任せて行きましょう!」
「そうだな!」
精一杯の、アリスの笑顔にシュトーレンもうんと頷いた。少年はアリスの袖を指で握っている。
「ここにいても暇だから…僕も行く。あと、名前はドルチェ。それだけ…。」
確かにここにいたって良いこともないだろう。ドルチェもまた自分らと同じ迷子ならばここを抜け出したい気持ちも同じ。皆の同意を得たところで三人は仲良くじゃれあう(第三者から見て)二人をよそに示された道を真っ直ぐ進んだ。

「あ、さっきのウソだよ。ねえねえ、この目の下の何?押したら爆発する?」
「既に俺の怒りは爆発しそうなんやけど…あ、やめやっぱ痛い痛い!ぎゃあああああ!!!」
後ろから仲睦まじい(第三者から聞いて)声が聞こえてくる。泣きぼくろを押して爆発するなどあり得ない展開のかわりにフェール自身が爆発したとでも思えるような悲鳴がやたら耳に残った。でも振り返らなかった。
「あーあ、せっかくの感動の再会がー…。」
どこか残念そうなシュトーレン。ドルチェがいまだにアリスの袖をつまんだまま足元を見て歩き、呟く。
「今からでも遅くないよ?混ざってくれば?」
アリスが追随をかけた。
「そのかわり置いていくわよ?」
少しでも戻ろうとすした気持ちが微塵もなく消えた。
「…でも、生きていてくれた。なんだか、それだけで嬉しい。だからいいやって思えるの。」
本当に嬉しそうな笑顔に言い返す言葉はなかった。異邦人の連れは森の出口を目指してひたまっすぐ歩いた。










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