その中の一つがフェールの方を振り向く。リーダーなのだろうか。しかし、自ら動こうとしない。
「え!?…どうやったっけ、つ、ツクツクワンク…。」
指揮を委ねられたフェールは咄嗟に呪文のような言葉を羅列するとそれが合図のごとく、皆の瞳にあたる部分が真っ赤な眼光を放った。
「よし!おまえら、俺の言葉がわかるなら今から言うことに従え。」
アリスは嫌な予感しかしなかった。異形はこっちを認識し標的を定めた。
「…フェールさん、でも私。」
彼女が何を言おうと乞おうと、口から出る言葉が同じである以上今の四面楚歌の窮地から逃れることは不可能なのだ。アリス達は直感的に察した。道ででくわしたあの化け物とはまた違う敵意とおぞましさ、これは非力な自分達ではどう足掻こうと勝ち目がないということを。

だからといって、渡すわけにはいかない。

なかば成り行きでそうなっただけでそこまでの責任感を抱くことのほどでもないのかもしれない。だが、本当は渡したくなかっただけなのかもしれない。

「おい、アリス逃げるぞ!木が多いからごまかせるぞ!」
シュトーレンがアリスの腕を掴む。でもいざとなったら足がすくんでうごかない。ごまかせたところでこちらの体力がもたなくなったらそれまでだろうに。
「レンさん、それもって逃げて。」
「バカか!お前も逃げるんだよ!」
まさかシュトーレンにバカ呼ばわりされるとは思わなかったが、なぜか今はさほど悪い気もしない。今の自分はきっと、誰から見ても本当にバカなことをしている。

「みんなやられるよりはマシでしょ!?」
だが聞く耳をもたない。
「一人でもやられる方が俺は嫌だ!!」
なんでこんなときに融通がきかないのだろう。アリスはもどかく感じた。
「あいつらから鍵を奪うんや。最悪殺しても構わへん、なんとしてでもとってこい!」
フェールは手のひらを返したように、こちらを指差し周りの者の注意を向こうに誘導する。

ああ、この鍵さえ渡せばこんなことに。

そもそもこんな鍵などなければこんなことに。

後悔したらきりがない。もう遅いのだが、シュトーレンも少年も逃げない。アリスも逃げることができない。逃げても無駄だ。勝てやしないだろう。

望みなどなかった。異形の化け物の一つが先手を切ってこっちに近づいてくる。アリスは強く瞳を閉じた。









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