この森は国とほぼ隔離された状態なのだろう。異国者の二人は(これが大砲の音だとして)何の目的で打ち上げられたかを知っているのに対しフェールと少年がひどく狼狽えている。そりゃそうだ。事情も知らない者にとって突然大砲が鳴り響くこと自体ただごとではない。

「この近くで誰かのターンが終わったのね。ここは赤と白どっちだったかしら?」
「アリスが覚えてないのに俺が覚えてるわけねェだろ。」
国が行うゲームに無参加の二人はそんなことなどすっかり忘れてここまでふらふらときたのだ。いたって冷静な対応の仕方にその場にへたりこんだままの少年が呆気に取られている。
「なんでそんな落ち着いてられるの!?」
大袈裟ではあるが本来これが普通の反応だ。アリスは苦笑する。
「そりゃあ私もびっくりしたけど、この音の正体を知っているもの。」
それに対しシュトーレンが口を挟む。
「待てよアリス。これがあのチビの言ってたやつだとは限らないだろ?」
すかさずアリスが返した。
「まあレンさんったら!チビだなんて失礼だわ。リナ様と呼べって仰ってたじゃない。」
「あーそうだったなアリス…ん?」
まだ何か言いたそうにしていたが途中で止める。
「どうしたのレンさん…あら?」
現象が彼女にもうつる。信じられないといわんばかりに口元を手でおさえて二度瞬きをする。二人だけの会話でそこにいる皆が気付いてしまった。
「…レンさん。シュトーレンさん…ねえ、そうよね?わ、私の名前はアリスよね!?」
アリスは期待の眼差しで見上げる。自分のひょんな閃きがまさか無理難題を解いたなど、これほど嬉しいことはない。
「アリスだな。えーっと…アリス…アリス…アリス・プレゼント・アゲルだっけ?」
どうやらシュトーレンは素で覚えてなかったようで、見事に所々間違えていた。本人は真剣な顔なのでアリスは逆に彼を気遣う言葉を探り始める始末だ。
「…正しく言えたらプレゼントあげる。」
残念ながらポケットの中にはキャンディーひとつしか入ってなかった(手探りして今気づいた)。そしてあげる気もなかった。

「…ちょいと待て!!お前らは何者や!!!」
一人話に置き去りになったフェールはずっと話を聞いていたが我慢ならず焦燥滲んだ顔で声を荒げた。
「私達は迷子で…。」
あまりの豹変ぶりに困惑したアリスの言葉を遮る。
「この森の呪いを解く方法なんて存在せんはずや…せやのに忘れた名前を思い出すなんて…!」
そのつもりで皆を出口に連れていこうとしていたのだ。森から出られるのに呪いを解く必要はない。それもまたこちらには一切関係のないことであり、シュトーレンは優越感に浸った自信満々の笑みでふんぞり返る。
「お前が忘れてただけじゃねーの?」
「うるさいッ!!」
だがフェールの一喝にシュトーレンはすんなりと黙りこんだ。
「どうゆうことや…俺は聞いてへんぞ?まさかあの「鳥」、俺に嘘を…?」
誰にも聞こえるかわからない声で呟いているフェールの足元が数ヵ所、うっすらと光り始めた。
「あっつ!!?」
同時にシュトーレンが突如ネクタイを乱暴に弛めブラウスのなかに右手を突っ込み何かを取り出した。
「レンさんどうしたの…、え…それは!」
熱くて持てないらしい。チェーンをつまみぶら下がるそれは自由の鍵で、黄金に発光している。
「なんか知らないけど光ってるぞ…熱ッ!?」
手に取ろうとしても触れることが出来ない。
「光りは熱を帯びるから…じゃなくてなんで光ってるの?」
「さあ…。て、迂闊に出したらダメだってば!」
アリスが早く何処かにしまおうと催促するも生地がたいして厚くない服ではすぐに熱が伝わってしまう。とはいえ一刻も早く隠さなければ!







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