だがそう言われたら気になってしまうのは蚊であれど人の心をもってしまった所以の性である。
「関係ないなら言わんかったらええやん。…んで、何?」
興味ない素振りを見せつつさりげなく訊ねた。
「いままでのなかで最高の案が思い浮かんだの!まあ…無駄だけど。」
アリスは勿体ぶるつもりなど全くなかった。しかし、フェールにとっては彼女が焦らしているような気がしてならない。気がせっかちなため我慢が出来なかった。
「確かに無駄やけど、言うのは無料(タダ)やで。」
なんとなく、「気になるんだ」と皆が察知した。決して「ただの言葉」で動かされたわけではない。
「んーそこまで言うなら…もしね?もしもの話よ?記憶喪失とかで「自分の名前を忘れた人」がこの森に入ったらどうなるのかしら。」
最高の案と豪語した割にはやけに自信が無さそうだった。
「忘れたものを思い出せるわけないでしょ?」
少年が呆れたようにぼやく。
「だって〜…名前があるから忘れるんでしょ?」
「ってことは「ちゃんと元の名前がある」ってことじゃん。自分が勝手に忘れてるだけで…君の頭は脳みそのかわりに大豆でも詰まってんじゃないの?」
あげくのはてに余計な暴言まで吐かれてアリスは黙り混んでしまう。最初の臆病な態度からはなんという豹変ぶりだ…と、思いきや口が悪いのは最初からだった。
「脳みそ…ハハ、味噌は大豆から出来るもんな、そこもまたミソゆうて…なんでもない。」
少年の冷たい視線が背中に突き刺さったのを感じ取る。フェールの洒落は残念ながらアリスにもレベルが高かったみたいだ。
「でも残念やなお嬢ちゃん。そんな単純すぎる話が通じるわけあらへん。…一度、ここに迷いこんだ奴の一人が全く同じことを言うてはった。」
内心アリスを小バカにしていた少年が驚きの声を漏らす。
「そいつは自分から死んだ。「親から貰った名前を思い出せないなんて…」やってさ、アホらしい話。」
彼の言い方にシュトーレンが一人反論した。
「人が死んだのにアホらしいってなんだ!」
「レンさん…。」
対してフェールは一向に懲りちゃいない。鼻で笑う始末だ。
「だってそうやん。名前なんかなくたってどうにかなるもんの為に、たったひとつの命を終えるんやで?」
しかし、シュトーレンは彼が難しい論理を説いてるように聞こえ、ひとえに小首を傾げる。
「例えば、アダ名をつけられそればかり広まって本当の名前で呼ばれなくなりアダ名で呼ばれる…それで死ぬか?」
その問いに答えたのはアリスだった。
「それが死ぬほど嫌だったら仕方ないんじゃないかしら?」
対してフェールは彼女らに皮肉を浴びせた。
「仕方ない…か、名前は大事でも仲間の死はその程度か。」
「そんなつもりは…ッ!」
だが、これ以上の言葉が浮かんでこない。感情まかせに下手なことを言ったなら更に倍で返されそうな気がしたからだ。
「人の他人事も一言…ウチもそうやな。身内の死なんてもう見飽きたしなんとも思わへん。せやけど、みんな好きで死んだわけちゃうのになあ…。やれやれ。」

その時だった。大砲の音が大地を、空気を震わせた!
「きゃあ!!」
「うわああ!?」
「ぎゃん!!?」
アリスとシュトーレンが耳を押さえる。少年は全く油断していたのか悲鳴と共にその場に尻餅をついてしまった。
「なんや?爆発か!?」
フェールもやや地面から足を浮かせ逃避の体勢に入る。








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