腕と足を組んだ格好でふわふわ浮いている。耳を済ませば羽音だって聞こえるのだ。蚊の羽音など聞いたものは誰もいないだろうに。
「それにいくら助けてくれ言われたってな…ウチにはどうすることも出来んわけよ。」
アリスの声に力がなくなる。絶望するにはまだ早いとはわかっていても、相手の言葉に救いがなくなっていく、そんな気がしたのだ。
「な、なんで?」
その様に半ばフェールも同情する。見下ろすその目は憐れみを帯びていた。
「この森は実際ほんまもんの呪いの森なんや。名前を忘れてしまうんもこの森の呪い。つまり、森の呪いを解いて自分の名前を思い出さんと出られんのや…。」
それを聞いた途端、一同に絶望の色が浮かぶ。他人事をかましていた少年も、全く打つ手が無しとわかったら表情が沈む。ここで忘れたものを、ここでしか思い出せるしかない。そうじゃない。ここで忘れたものをここでどう思い出せというのだろうか。

「マジ…思い出したいのは山々だけど。」
「いや、そんなことはねェ。必ずどっかに出口はあるんや!探そうよ!」
肩を落とす少年。諦めきれず悶々としているシュトーレンは口調がごちゃ混ぜになった。
「おうおう悩め迷え考えろ。」
本当は面白がってるだけなのか、フェールは傍で高みの見物と決め込んでいる。時間だけが過ぎ何の打開策も見つからないと思っていた。

「でも逆に考えたら、森の呪いを解けばいいだけの話じゃない?」
真っ先に諦めたと見なされたアリスが口をはさんだ。少年とシュトーレンが目を点にして彼女の方を一斉に振り向く。
「ブフォッ!?」
一方でフェールは吹き出してすぐに口元を両手で塞ぎ笑いを堪えた。アリスはいたって真剣だ。それがまた彼の笑いを誘う。
「いいだけって…いいだけやって…ククッ…随分簡単に言うてくれはりますなぁ…腹捩れる…。」
もはや完全にツボにはまっている。
「いや…いいだけて…てことは何か案でもあるの?」
「ないわ!」
少年の問いにアリスは断言した。これでフェールに中ダメージを与えた。
「これから皆で考えるのよ!三人寄れば真珠の知恵って言うでしょ?」
「真珠だけに輝いてるな!」
更に大ダメージを食らわした。正しくは文殊の知恵である。アリスには知ったかぶりを堂々と披露され、シュトーレンはそれにわけのわからない乗っかり方をする。震える背中が笑っているようなものだった。
「あの虫野郎の様子がおかしくない?」
少年に指摘されやっとまともに会話できるぐらいには自我を取り戻した。目には涙を浮かべている。
「…お前ら最強やな。そうくるとは思わなんだわ。涙出てきた腹も痛いわ…心配はいらんで。」
対しシュトーレンが言った。
「誰もお前の心配はしてねーぞ!」
「………せやな。」
確かに三人は考え事をしていたのだから仕方ないとしても、今度は精神的ダメージをもろに喰らったフェールは興醒めした。
「そんなことより考えましょう。無謀なことをするより、ひとつでも多くの案を出したらきっとそのなかに答えがあるわ。」
「そうだな!」
「僕は別にどっちでもいいんだけどなー…。」
少年はあまり乗り気ではないものの、退屈しのぎの感覚で話し合いに加わった。








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