それはとある夕方のこと。アリスは一人、暖炉の前の木製で真新しい椅子に座って編み物をしていた。編み物自体そこまで好きというわけでもなければ手の込んだものは作れず精々手袋かマフラーぐらいだが、誰もいない間の時間潰しにはうってつけな上に完成すれば今の時季に使うことだって出来る。だが相変わらず、手と同時に口も動くものだから作業は進まない。まだ何を編んでるかさえ把握できない。

「ねえ、知ってる?…というより覚えてるかしら、ダイナ。」
そう言うアリスの足元には丸い毛糸の塊に夢なま真っ黒な飼い猫のダイナがいた。しかしアリスも編み物に夢中でダイナの方は見ていない。
「明日はね、私の誕生日なのよ。11月5日。」

アリスはふと窓の外に視線を向ける。居間はまるで外が夜かのように明るい照明で照らされ、生き物みたいに動く暖炉の中の火のおかげで心地よい暖かさ。だが外は色彩薄く、牡丹雪が穏やかに降って芝生、家々の屋根に真っ白なクッションをかけていた。その中、元気な数人の男の子が走っている。

「だからお父様やお母様…お姉さまは私の誕生日パーティーのための買い物に行ってて、もちろん私はお留守番…でも、わかりきっているのとそうじゃないの、どっちがわくわくするかしら?」
再び編み物に目を戻す。穏やかで嬉しそうな声で、独り言ではなくダイナに語りかけた。

「例えばよくあるパターンで私は何も知らないの、そして誕生日になったら皆でサプライズでパーティ開くのよ。でもそれまでの間はいてもたってもいられないわ。」
風がわずかに窓を叩くがなんら気にすることではなかった。
「じゃあパーティするのはあらかじめ決まってるの。つまらない、なんて思う?それまでずっとわくわくできるじゃない!誕生日プレゼントも私がずっと欲しかったものよ。最高!…でもやっぱ刺激に欠けるわね…。」

ダイナがアリスの「最高!」に反応してにゃあと鳴いた。すかさず聞いて更に一人盛り上がる。




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