少年はそんな様を横目で傍観している。
「…あら?私…私の名前はなんだったかしら…?」
「お前の名前は…ん!?まさか…俺は…あれ!!?」
ふたりとも、なんと自分の名前が口に出せないのだ。
「あっはははははははははは!!!!!!」
腹を抱えて少年が笑い出す。
「ほーら、忘れちゃったんだろ!?忘れちゃったんだーっ!あは、あははは…超ウケるんですけど!いでっ!」
シュトーレンの投げた小石が少年の額に直撃すると彼の笑い声はぴたりと止まった。

「あなたは…あなたの名前は?」
無駄な問いとはわかっても僅かな期待をしながらシュトーレンに聞いた。だがここを訪れた者がみな対象に入るなら当然返ってくる答えはこうだ。
「わかんねえ…すっかり忘れちまった。」
信じられるだろうか。産まれたときからずっと親しみ慣れてきた自分の名前をここにやってきた瞬間に忘れてしまったというのだからこれほど滑稽な話はない。人の名前も、全く思い出せない。
「んで、お前はなんだ?」
「えっ、いや…だから忘れたんだって…。」
赤くなった額を両手で擦りふてぶてしく少年が答える。
「名前じゃねーよ。お前が何者かって…。」



「こんな陰気なとこでえらい賑やかやな。」
突如、全くの第三者の声が「空」から聞こえた。しかしにわかに誰もが顔を上げたりしない。首を横に捻るなりしてまず森の中を見渡す。勿論、声の主はそこらへんにいない。

「と、鳥が喋ってるのかしら?」
まさかと思いアリスが最初に空中に視線を向けた。彼女は実際、喋る鳥を目の当たりにした事があるのでそれぐらいたいしたことはなかった。でも違った。
「空を飛ぶんは鳥だけやおまへんで、お嬢ちゃん。」

二人もようやく声の主の姿をとらえた。鳥でもない、空中に浮かんでいたのは、人間だった。






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