調子に乗ったアリスが更に続ける。
「お金持ちの家には大体一個は飾ってあるわよ。よく見るのは…鹿の頭ね。」
彼の表情が段々恐怖におののいていくのがわかる。
「趣味悪ィ…ウサギはどうなんだ?」
アリスもウサギの剥製はお目にかかったことはなかった。
「見たことはないけど、鹿があるならウサギもあるでしょう。」
何気無しに言った言葉がとどめを刺したようだ。防御態勢なのか耳をおさえ下を向いて震えるシュトーレンの姿に多少悪い気がした。
「人間は…あるのか?あったら…俺、両方…。」
シュトーレンがウサギの部類にはいるかどうかはさておき、人間の剥製など聞いたこともない。
「なんで人の剥製を人が飾るのよ。悪趣味どころの話じゃないわ。」
呆れて返すアリスにシュトーレンは少し安堵の色を取り戻した。
「そ、そうだよな。」
だが二人の顔は笑っていない。どこからか視線を感じる。
「……あそこに何かいると思う。」
アリスが彼の袖を引っ張り一本の木を指差す。だが、いると思うだけの予測に過ぎない。何をしろとも言っていない。
「おう、そっか。」
シュトーレンは迷わず石ころを拾って木へ 向かって投げつけた。
「バカ! もし熊とかだったらどうするのよ!」
小声でしかりつける彼女に対しシュトーレンの危機感は皆無に等しかった。
「熊なら俺が倒すぞ!」
と自信満々に言われてもいまいち心許ない。
「そ、そういう問題じゃなくてぇ…。」
どう頑張ってもわかってもらえそうに無く涙と共に感情が込み上げそうになった。
「…び、び…びっくりしたぁ…。」

二人の揉み合いがぴたりと止まる。

「ねえ…今…。」
「……。」
お互いの目を合わせ、そーっと木の方を見つめた。しばし、静寂が続く。

「人間かあ…よかったあ。でも僕の気配によく気づいたなぁ、すごいや。いやいやいや気づいたらダメじゃん。」
木の後ろから声がする。自分達と同じ人間で、襲うために相手を待ち構えていたとかいう素振りはないと判断した。
「ずいぶん可愛い声ね。女の子かしら。」
警戒を解いたアリスの呑気な呟きに「えっ?可愛い?」て反応してきたものだからシュトーレンは更に大きめの石ころを木にぶつけた。
「きゃんっ!?」
可愛い声が悲鳴をあげた。手応えはありだ。黙って様子見をすると、こちらが望んだ通り向こうからお出ましになった。
「ヴぁぁぁカじゃねーの!!?居るってわかってんのに二度もしてくるかよ普通!!お前らの耳は節穴か!!」
全身がビビッドカラーで彩られたピエロ風の少年が涙目で威勢のいい暴言を吐いてきた。声が上ずっているので実は相当怯えているのだろう。手は木に添えたままで足は内股気味だ。
「ごめんなさい。」
アリスが謝るも、木のそばから離れようとはしない。
「わ、わかったらいいんだよ…わかったら…。」
少年はまだ不服そうだか案外早く許してくれた。
「お前は誰だ?」
シュトーレンの問いに少年が不服そうに答える。
「さあ、そんなものここに来たら忘れちゃったね。君達だってきっとそうなってるに違いないさ。」
自分のことなのに他人事のような言い方の彼に、そんなはずはないと、アリスが胸を張って名乗り出た。
「何をおかしなことを…私の名前は…。」
まだ後に何か言いたそうにしたまま、困惑を露にした表情で固まった。






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