「………………?」

信じられなかった。何が起こったのかを理解するにもできるはずがない。アリスは力が入らない足をそばにある「木」を支えにゆっくり立ち上がって「空」を見上げる。
「…おかしなことばかり!なんだか笑えてきちゃう!」
そういうアリスの顔は強ばっていた。ついさっきまで列車の中にいたはずだったではないか。
「ん…、まぶし…。」
後ろで茂みが揺れる。振り向くとシュトーレンが葉っぱにまみれて仰向けになっていた。駆け寄って体を揺さぶる。
「レンさん起きて!!大変よ!」
すると彼は渋々瞼を開く。アリスの顔も見えにくいほどの逆光に違和感を覚え重い腰を上げた。
「アリス、お前…後光が眩しいな。じゃねえ!ここは何処だ!?」
少し周りに視線を動かせばすぐに異変に気づいた。
「ゴボウが眩しい…?嫌だわ、なにそれ。」
軽々と身を起こし、不思議そうな顔で唸るアリスの隣できょろきょろと小さい目を動かす。
「森よ。どこからどう見ても…森だわ。」
そうだと言われて納得できるわけはないのだが、ここはもはや列車の中ではない。森でもない。樹海だ。真っ白な分厚い雲の上から陽の光が射し込んでくる為か見張らしはずいぶん良く、地面も乾いている。そして苔がこびりついた幹の太い木が所々に聳え立ち、いかにも目に優しい色が空間を占めていた。
「俺達…列車の中にいたよな!」
シュトーレンの言う通りだ。ここが森だろうが砂漠だろうがそういったことはどうでもいい。もしこの不条理を「ワープ」と言うのならばあの地震がなんらかの前兆だったのかもしれない。
「ん?んん!?わけわかんねェ〜…。」
悩む様すら新鮮に思えるほど、アリスは不思議な現象に慣れつつあった。だからこそ、彼女はいたって冷静なのだ。
「さあ、どうしたらいいのかしら。あら…エリンさんがいない。」
エヴェリンは列車に残ったようだ。またはぐれてしまいアリスは落胆した。彼がここを訪れた理由のひとつをこちらが所持しているのだから厄介だ。
「エリンさん何処で降りるのかしら?いや、こんなところで足止めを食らってるわけにはいかないわ。」
見るからにここはただの森。野生の動物に襲われたり、最悪永遠に出られないことだって予測できる。

「うわああああぁ!?」
早速出くわしたか、シュトーレンの悲鳴が聞こえた。
「レンさん…騒いだら余計襲ってくるわよ。そのままじっとして。」
アリスのいった通り、両手を上げて降参のポースで固まる。またまた振り向くとそこには警戒心剥き出しのシュトーレンと、石になった車掌がいた。
「………………。」
幸い熊でも狼でも無かったが、ツルツルとした肌触りと綺麗な輝きを放つ見事な車掌の石像が方膝を立てて座っていた顔を隠すものもないがここでは誰も見る人はいない。
「石は襲う意思がないから大丈夫よ、レンさん。なんちゃって…ね。」
ためしに足で背中を蹴ったら簡単に転がった。
「飾りたいとか言ってた人がいたけど剥製よりこっちの方がインテリアにはなるんじゃないかしら?」
ふと列車内での事を思い出す。シュトーレンが石像を爪先でつつきながら訊ねた。
「剥製ってなんだ?」
1度、彼には自分に答えを求めすぎた事を後悔させてやろうとアリスは不適な笑みを浮かべた。
「生き物を無理矢理殺して皮膚を剥ぎ取って飾ることよ。」
案の定、シュトーレンは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。効果は抜群だ。







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