列車特有の揺れではない。縦に横に激しく大きく、体感したことはないが例えしたとしてもこれほどのとてつもないもの滅多にないだろう。まるでこれは地震だ。ただでさえ動く空間で、もうひとつの不規則な動きが加わったものだから乗客の体はあっけないものだ、反対側の壁に全身ぶつけて気を失ったもいた!
「な、ななななんですか!?」
エヴェリンは自分の座席にしがみついているがこれ以上は下手に動けない。
「地震です!列車の中なのに!?」
「地面から離れてない限りはそりゃ揺れるだろう!」
向かいの席に座っている客も当然取り乱し、座席の周りには新聞紙がばらまかれ皆の靴跡がくっきりと浮かんでいた。よく見れば真ん中の老人はびくともしていない。椅子に根でも生やしたのだろうか。

「列車ってこんなに揺れるのかよ!?」
さっきの揺れで窓に頭を打ったシュトーレンは目にうっすら涙を浮かべながらカーテンにしがみついている。一方でアリスはまともにその場を離れることもできずに座ったまま体はあっちこっちに揺らされていた。肘掛けのおかげでその身を通路側へ投げ出してしまうようなことにはならなかった。
「きゃあああ!!何なのよ!!」
泣き言を喚こうが、怒鳴り散らかそうが、神に祈ろうが助けを乞おうが、天災だとしたら煩いだけでどうにも収まらない。乗客は皆、混乱していた。
「皆さん!冷静に!」
メガホン片手に2番が慌てて駆けつけた。
「8番!一旦列車を止めてください!」
すぐさま応答してきた。
「わかってる!」
しかし、列車の速度が緩やかになっていく感覚がない。揺れが静まる気配もなかった。その時、アリスの頭に何かが落下した。

「痛い!!」
床に転がったのは、ウサギのきぐるみの頭。2番がかぶっていたものだ。だが今や羞恥に気をとられている場合ではないことぐらい重々承知。
「大丈夫ですか!?」
その場にしゃがみこんで彼女の後頭部に手を添える。アリスは黙って頷く。怪我はなかった。少しは報われたのか、されど安堵はしていられない。
「ん…あれは?」
ふと顔をあげた。カーテンから半身だけ覗くのはシュトーレン。 カーテンを透けて小さな蝋燭の火みたいなものが光がふわふわと浮かんでいた。

――――――――――…



「ふぅ…やっと収まった…。」
8番がハンドルの前、げっそりした顔で項垂れる。数分後、列車は途中で緊急停止をかけたが丁度に地震も止まった。あれだけ賑やかだった車内もしんと静まりかえり、床には乗客の持ち物が至るところに散らかっていた。
「さーて、これからどうしよっかな。頭が真っ白だよ。」
運転の際は外していた紙袋を再びかぶり思考を整理させようとした時だった。
「運転手さん!大変です!!」
乗客の一人であるエヴェリンが顔を真っ青にして運転席のドアを必死に叩く。ただごとではないと、ギアを動かして列車を完全に止めて車内に踏み出す。
「どうしました?」
そこには口をあんぐりと開けたまま呆然とする紳士がいた。8番は、誰が言わずともすぐに「何があったのか」気づいてしまった。こんなことがもし本当に起こりえたのなら「彼等」の存在を否定して最初から「いなかったことに」してしまいたい程、おかしな異常に。甲冑の青年は震える指で向かいの席を差した。

「………突然、突然だ。…光って…車掌巻き込んで…消えた…消えた!!」

確かにそこにいたという証の切符二枚を座席に、きぐるみの頭を床に残し、客二人と従業員一人が姿を消したのだった。







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