段々と加速していく列車も今は一定の速度で走っている。謎は残るままだが、せっかくの列車旅をもやもやした気持ちでしたくない。揺れに揺られながら、体を休ませるために時間を潰すことにした。

「…俺も夜に街へ出かけたことがあるんだぜ。フランと二人だったな。」
唐突にシュトーレンが話を切り出した。どこを見て話していいのかわからず足元をじっと見つめている。
「二人?シフォンさんは?」
「帽子作ってたから置いてった。」
そういえば彼は仮にも帽子屋だったことを思い出す。
「私は家族みんなでお買い物か外食に行くぐらいだわ。誰かと二人きりだなんて…行ってみたい気もするけど。」
女友達がいても夜に一緒に出掛けることがなかったのだ。その点彼等にはそういった機会はいくらでもあったのだろう。
「俺達も買い物に行ってた。…なあ、男と女と二人並んで歩いたらカップルなのか?」
横の方からふと視線を感じたがアリスも下を俯く。
「それは違うと思うわ…ん?なんかこんな会話、誰かとしたような…。」
しかし、記憶に靄がかかったようにあともう少しのところで思い出せなかった。
「ま、そーだよな。アリスと俺とだったら何に見えると思う?」
「は!!?」
顔を赤くして反応してしまった。それが恥ずかしくなりまたまた俯く。
「そんなの、そんなこと…私に聞かれてもわからないわよ…。」
「そうだな。」
シュトーレンの一言で会話は呆気なく終わる。一人勝手に取り乱したアリスには何も言葉に出来なかった。
「アリスって好きな人や嫌いな人とかいるのか?」
アリスは唖然とした。
「今の流れでなんでそうなるの?」
「なんとなく。」
そろそろ彼になにかしらの意図があるのではないかと疑いたくなる。だが見る辺りいかにも何も考えてない顔をしていた。
「俺はまだ嫌いな奴がいないんだ。でも皆にはいるみたいなんだ。俺はおかしいのか?」
真剣な顔をして聞かれたら答えづらくても無視するわけにはいかなかった。
「おかしい…ええ、おかしいわ。そんなの、有り得ないもの。好きなものがあったら嫌いなものもあって釣り合うと思うの。…なんて、言い訳よね。」
シュトーレンは難しい表情で首を傾げた。
「おかしいのか…ん?で、結局アリスにはいるのかって。」
「いるわよ。」

少しの間沈黙が流れた。

「一人の男の子が好きで好きでしょうがなかった。私が悪いところもあるけど、その子にはもう彼女がいたの。それからしばらくは、その彼女も含めて男の子のことが嫌いになった…。」
喋っていくにつれて声色が弱くなる。気遣いからか空気を読んだのか前の客はだんまりを決めている。更に続けた。
「ひどく身勝手だわ。そんな自分も嫌いになっちゃった。…でも、色々考えたら私だけくよくよするのも馬鹿馬鹿しくなっちゃって…。」
「ぶえっくしゅん!!」
紳士の豪快なくしゃみで途中から掻き消されてしまった。
「へえー、ようはふられたんだな。」
シュトーレンの心にもない一言が思ったより突き刺さった上に図星なのでぐうの音も出ない。
「でもなんでそんなこと、俺に話してくれたんだ?」
さすがにそれにはアリスも物申さざるをえなかった。精神的に余裕がなくなると途端にいきり立つ。
「あ、貴方が聞いてきたんでしょ!?あの庭に入った時といい、嫌なことばっか思い出させて…。」
横で二人のやり取りを小耳に挟んだエヴェリンがアリスを宥めようと立ち上がる。揺れ動く車体の中では足取りも覚束ない。
「アリス落ちついて…!」

そんな彼の足を止めるかの如く、列車が突然縦に大きく揺れた。









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