若干不安そうな表情を浮かべている彼が可笑しくてつい口元に笑みが零れる。一瞬だけ、怖がりな妹と重ね合わせてしまった。テーマパークのお化け屋敷に入る前は普段気が強いくせして急にそわそわし、何も言わずアリスの腕に終始しがみついていたものだ。…とはいうものの、このような大の男にしがみつかれても困るものだが。
「暗いと何も見えなくなるから…。」
人に聞いておきながら勝手に手を上に重ねている。よほど不安なようだ。
「寝る時は暗くしないの?」
「それとこれとは別だろ。」
彼の即答にアリスは頷いた。
「停電とか突然真っ暗になったらみんなびっくりするでしょうね。でも、あれって暗いからびっくりするんじゃなくて「突然何かおかしなことが起こったから」おっかなびっくり…あ、あれ?」
誰もアリスの独り言など聞いちゃいなかった。
「おっかなびっくりって何かしら?」
「知らねェし。」
またもやシュトーレンにすかさず返された。その時だ。足元の影がより鮮明になる。列車の電気が一つずつ前からついていった。
「おお!ついた!読める…読めるぞぉ!」
「あぁもうすぐ夜だ…。」
紳士はおおいに喜び、青年は感慨深く頷いた。
「あっ、明るくなったわ。」
すると黙ってシュトーレンは手を離して膝の上に乗せた。繋ぐ必要も何も無くなったからだ。それだけの行為に下心はない。
「へぇ、まるで夜の町を走ってるみたい!」
「そうですね…走ってるみたい…いや、走ってる?」
赤髪の女の子とエヴェリンの呟きにアリスは窓の外の景色に目を凝らした。驚きを満面と露にした顔がガラスに映る。
「…え?さっきまでトンネルの中を走ってたわよね?というか、まだ「明るかった」よね?」
トンネルはとうに過ぎておりレンガ造りの三角屋根の建物や背の高い街灯が並ぶ洒落た街並みの中を変わらぬ速さで走っていた。なのにトンネルから抜けたという実感がわからなかったのは電気のせいではない。
「…まあ、信じられないこと。」
街の空は、トンネルに負けじと真っ暗だった。月明かりが眩しく星も沢山散らばってそれぞれが瞬いていた。
「いつのまに夜になっちゃったの!?」
「トンネル通ってる間…?」
茫然とシュトーレンが外を眺めながら返すも「はい、そうですか」の一言で飲み込めるような状況ではない。トンネルを通過する時間なんてわずか数秒。その間に日が沈み暗くなるまでの数時間が経過したなんてそのような不条理、少なくともアリスには理解できなかった。
「窓を開けてみたらどうだい?」
紳士が新聞紙越しに彼女に話しかけた。きっと読めないだに違いないだろう。それでも開けた先に答えがあるのならと腰を浮かせて窓を全開した。予想通り、大量の風が一気に吹き込んでくる。新聞紙のバタバタという音と紳士の悲鳴も聞こえる。
「こうなることはわかっていだろう。」
「読めぬ!読めぬぞぉ!!」
青年の冷ややかな声も聞こえ
はずもない。ブロンドをの髪とマフラーが忙しく靡く。顔面に風を受け止め中々目があかないのに、それを邪魔して明かりが射し込むのに随分嫌な予感がした。なんとか瞼を半開きした。


「どうなってるの!?」
シュトーレンも、エヴェリン御一行も目を疑うよりほかなかった。窓を開けたら、夜の街並みが真っ昼間の風景に早変わりしたのだ。
「お客様!今すぐ窓をお閉め下さいませ!」
2番の注意を喚起する声が聞こえる。アリスが慌てて窓を閉めた。
「……………。」
閉めたら先程と同じ、夜の風景に戻った。アリス達は、余計に原理そのものがわからなくなった。








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