2番はたった今使用したばかりのホイッスルを8番に手渡した。
「野郎同士の間接キスででですか!」
エヴェリンの後輩と思われる女の子が顔を赤くして指を差したところを隣の男の子にげんこつされる。
「何を仰るやら…。私が使うことには変わらないです。二回までなら。」
振り向き際に言う。さも当たり前のごとく。
「は、はあ…。」
アリスは逆に引いていた。
「間接キスってどんなキスなんごっふ!!?」
言葉で返すのがいい加減面倒に感じたアリスの肘が容赦なくシュトーレンの腹にめり込む。さすがに萎縮したのか、それとも単に痛いだけか、腹部を抑えて口をつむった。運転席から更に高らかなホイッスルの音が鳴る。使ったんだと、確信した。

「出発進行!」
「もう、うるさいわよ…。」
これこそやっと列車旅が始まるのだと思うと二人の胸が期待に躍る。一番聞きたかったことが聞けず仕舞いで終わったのが心残りではあるが。
「…もう…ぐすっ…入りません…お腹一杯です…。」
横から一名、泣き言を呟いている連れがいたが気に止めることはなかった。

ガコンと車体は一旦揺れ、少しずつ、少しずつ、ゆっくりと前へ進んでいく。ありふれた駅の景色が流れていく。
「おお!すげえ、ホームだっけ?ホームが動いてるぞ!」
発車した途端、アリスの頭にあごを乗せて小さな体に寄りかかり窓に張り付いたシュトーレンの顔は無邪気な幼子のように輝いていた。
「人がすげえ速さで後ろに歩いて…ないな?止まったまま動いてるぞ…ん!?」
違う。しかし、異性に体を密着されることに慣れてない少女にとっては精神的にも拷問をかけられているに等しいものだった。

「…列車が走ってるんだよ。あと、女の子が見えないじゃないか。」
甲冑の青年が助けてくれたみたいだ。シュトーレンも素直に席に大人しく座る。
「女の子が見たいのか?」
紳士が横目で青年を睨む。どうやら語弊が生じたようだがアリスにとっては感謝の一言に過ぎなかった。まだ頬に紅潮を残したまま窓の向こうの景色に視線をうつす。

「まもなく、夜が来るな。」
紳士はなにやら意味深なことを一人呟いて背中と座席の後ろに隠していた新聞紙を開いた。見出しには英語で「一国を懸けた壮絶ゲーム!」と書いてある。
「電気はつくんだろうな?」
「そらつくでしょう。」
青年は自分の甲冑をハンカチで拭き始めた。老人の頭は列車と一緒に揺れている。夜になる前に寝てしまったのだろうか。
いよいよ列車は本格的に走り出し、景色は目に止まらぬ速さで過ぎていく。じっと近くの木々を見ていると酔いそうだ。
「………なあ、アリス。ずっと同じ景色か?」
シュトーレンの問いに苦笑いを浮かべた。
「すこしぐらいは続くわよ。」
少しも続くことはなかった。トンネルに入ったのだ。外は一気に真っ暗になった。

「びっくりしたあ!!」
「ひゃ!あ、あなたの声でびっくりしたじゃない!…近い!」
また彼の体がのし掛かる。窓側を陣取った自分に後悔をした。
「アリス…列車も真っ暗になるのか?だったら怖いから手を繋いでくれ。」
意外としか言いようがない。アリスは目を点にする。偏見では無いが、暗いところでは反対に騒ぐ子供みたいな性格だと自分の中で勝手に思い込んでいた。








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