口調も態度も丁寧でとても礼儀が良い。服装からしたらこの列車の車掌だとわかった。よく見れば近似色が交互にわかれたような中途半端な制服に細身の青年。ただ、1つの箇所がとてつもない異彩さを放っていたのだ。
「あの、すいません…。なんで「そんなもの」をつけているんですか?」
聞いてはいけないことのように感じたがアリスは尋ねた。彼女が言うそんなもの、ごつい黒色のガスマスク。それをさも当たり前のごとく顔面につけており、時々息遣いが聞こえる。明らかにそこだけが第一印象を「不審者」にさせているが、乗客は誰一人彼を変な目で見ることはない。
「まあ色々事情がありまして…。怪しい者ではございません。ただの車掌でございます…。」
事情はさておき、そんなことを言われても困る。ついつい気持ちが素直に顔に出てしまったアリスはひきつった笑みを浮かべた。
「すごい仮面だな!」
シュトーレンはちっとも話を聞いてないどころかガスマスクを知らないのか仮面をつけているのだと思い込んでいる。そして立ち上がり、アリスが止める間もなく彼は勝手にガスマスクを取り外した。
「ちょっ、レンさん…!」
時は遅し。だが全く気にならないといえば嘘で、止めたふりをしつつ彼の露になった顔をしっかりとその目で確認した。
「…………!」
車掌は何が起こったかしばし理解できず真の抜けた顔で口を開けている。一方、近くに座っていた乗客がざわめき始めた。アリスも思わず口元を手で覆う。垂れ目気味の紫と金色のオッドアイが優しそう且つ不思議な印象の、端整な顔付きをした青年。顔の半分が火傷の痕のように赤くなっており、髪も瞳と全く同じ色で左と右
二色にわかれている。服と合わせたらどこまでも左右対称となっていた。
「……はっ!しまっ、しまった!!顔を隠すものが無い!」
車掌が慌てて帽子で顔を隠すが、しばらく気まずい空気が流れた。無理もない。あのような痛々しい痕を見たら、とアリスは同情した。
「いつもそうなんだ…僕の顔を見る目が…いつもおかしいんだ…この視線を浴びるのが嫌だから隠していたのに…!!」
ぼそぼそと泣き言を呟いている。仲間がしたことなので余計に申し訳なく感じたアリスはシュトーレンから無理矢理ガスマスクをぶんどって車掌に返した。
「あっ!仮面!」
「ごめんなさい…私の連れが…。」
取り戻そうと手を伸ばすシュトーレンの顔を座席に押し付けながら彼の手元に渡そうとすると、車掌はすかさず受け取る。しかし、装着はせずに帽子で隠したままなのはつけるわずかな間でさえ見られたくないのか。
「うわあああああああん!!!!!」
あろうことか、とうとう限界であった車掌は業務を投げ、泣きわめきながら奥の車両へと走っていった。

「見たか…車掌の顔…。」
「あんなの初めて見るわ…。」
ガスマスクをつけている時とは逆に顔を晒した時の方が話題になっている。嫌でも耳に届くため、そのたびにアリス(だけ)がちょっとした罪悪感に駈られる。この出来事が後に心にも痕を残さなければよいのだが…。
「あんな美しい顔初めて…もっとずっと見ていたいぜ…まるで人形のような…。」
「剥製にして書斎に飾りたい…。」
「綺麗だった…。」
どうやら、火傷の事を言っているようではなかった。…しかし、声を聞くあたり、男の人が剥製だの綺麗だの恍惚としたように呟くのは果たしていかがなものなのだろうか。








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