駅のホームで待っているとすぐに夜行列車は到着した。目の前を速度を徐々に緩めながら走る列車はアリス達の並ぶ列のとこにドアがぴったり来るようにして止まった。列車自体は特に変わった特徴もない、アリスのいた世界でもよく見るような普通の列車だがあくまで形などの話で、色は落ち着いた茶色や黒じゃなく鮮やかな紫に黄色の星模様…これだけでもはや普通ではなかった。
「夜行列車だからといってすごい色づかいね。」
軽く引き気味のアリスに対しエヴェリンはなぜか目だけ恍惚としていた。
「反対の位置にある色をお惜しみ無く…すごいです。」
何をいってるか理解できなかったが美術的センスの違いなのだろう、アリスはどう見ても奇抜としか思えなかった。
「俺、列車に乗るの初めて…。」
シュトーレンに至っては列車そのものに表情を恍惚とさせていた。各々違うことを考えてると前方でガタンと音がした。
「わっ、わっ。」
ドアが開いたのだ。人が前へ前へ吸い込まれていく。有りがたいことにドアとホームの間に板が置いてあり、乗り降りする時の安全がしっかりと確保されていた。アリス達もその上を通り、いよいよ列車の中に入った。

「中はやっぱ、普通よね。」
厚いカーテンのついた窓、向い合わせの客席、そして吊り革。カーペットのような靴越しにでも伝わるふかふかとした(あくまでも)床に、小さな電灯。お洒落なリビングがそのまま列車になったみたいだ。
「中まであんな色だったら、みんなに安らぎの時間を提供するどころか落ち着いて気が気じゃないわ。」
アリスが適当な席を探すとすぐ近く、奇跡的にも一番前の席が開いていた。
「そこ座りましょう!早い者勝ちよ!」
すかさずアリスは窓際を陣取った。シュトーレンがその隣に腰を下ろす。
「エリンさん…あら…。」
エヴェリンは通路を挟んだ隣の席に、行儀よく足にリュックを乗せて座っていた。そう、アリスの向かい側にはすでに先客がいたのだ。エヴェリンの前の席はかろうじて空いているが、どうせすぐ違う客が座るだろう。
「あっちがわに座ればよかったわね。」
後悔しても、もう遅い。

「そういやアリス、普通の列車と夜行列車てのは名前が違うだけなのか?」
なんとなく来るのではないかと思ってた質問にアリスは冷静に返した。
「真夜中の間だけ走る列車を夜行列車っていうのよ。乗ってる人が寝ている間もずっと走ってるの。…私も夜行は乗ったことないからちょっとわくわくしちゃう。」
「働き者だな。いつ寝てるんだろ。」
それに比べ、列車に乗ることが初体験のシュトーレンは彼女の倍は新鮮な気持ちだったに違いない(おまけに寝ないでずっと働いていると思い込んでいる)。足がそわそわとしている。
「夜しか走らないんだから昼間に睡眠をとってるんじゃない?あと、動きたそうにしてるけど動き回る所じゃないからね?」
とさりげなく注意すれば割りと素直に落ち着かない足を止めた。
「…そうよ。寝るところ、ベッドがないわ!」
ふとエヴェリンの方を振り向いてみる。ペットボトルの水を半分まで飲んだところで視線で気付いた。
「ああ…そうですね。というか、ここは本当に「夜行列車」なのでしょうか。」
言われてみれば確かに、中もいたって普通の、よく見る列車だ。

「あ!エリン先輩じゃないですか!」
後ろの方から二人の人物が隣の席の向かい側に座った。赤い長髪の女の子と白髪の男の子で、どっちもエヴェリンと同じ学校の制服を着ている。にしてもエリン先輩はいい顔をしていない。
「なんでこんな所に…。」
女の子の方は肩掛け鞄から早速お菓子を取り出しながら元気よく答えた。
「暇してたところ先輩を見つけたから尾行しておりました!」
隣の男の子はそれより彼の身なりが気になって仕方がないらしい。
「私服?女みたいな…あれだよね。」
「はあそうでしょうか。そこらにあったのを適当に着ただけですが…て、会長あなたは暇じゃないごもっ!?」
女の子に笑顔でコッペパン押し付けられ言いたいことすら満足に言えない。いずれにせよ、不運にも遭遇してしまったのだ。
「よかったな!席が埋まって!」
そんなシュトーレンの隣でアリスは苦笑する。
「すごい後輩ね。でも、満更でもない感じみたい…。」



「えー…発車までもうしばらくお待ち下さい。」
「わっ!?」
シュトーレンが驚くのも無理はない。いつのにか隣の通路になんの気配もなく見知らぬ人が立っていたのだから。
「いきなり現れんじゃねーよ。びっくりすンだろ。」
声を尖らせて批難する彼にゆっくりとお辞儀をした。
「おやおやそれは…申し訳ございません。」





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