さあ、そのためには駅員をまず探すことからだ。
「どこかにはいるわ。手伝ってよ。」
「あ、あのオッサン金髪のアフロだぜ!すっげえええ…。」
シュトーレン(こいつは)完璧にあてにならない。まだ自分の妹の方が…とどうでもいい事に気をとられつつ彼の腕を掴んで歩き出す。
「駅員さん…駅員…さん。さんさん…。」
引かれるままついていくシュトーレンも早足になる。

「アリース!!レンさーん!!!」
駅員を探すことに必死になっていたところだが、本来探さなければいけない人物からこっちに向かって歩いてきた。願ったり叶ったりだ。
「どこ行ってたの!?探したんだから!」
駅員を、だが。息を切らしてアリスが駆け寄る。
「すいません!お二人が喫茶店でゆっくりしている間に切符を…。」
エヴェリンの手に握られているのは三人分の切符だ。行き先は書いておらず、星の絵と850という数字が印刷されている。
「心配しなくても二度とあそこへは寄れないから…ちょっと、エリンさん…私達まだ行先決めてないわよ?」
問い詰められ少し怖じ気づく。
「あ…いえ、さっきぶつかった人に貰いまして…駅員の方に聞いてみたらこれ…850Gで、ど、どこまででも乗り放題…。」
ぶつかっただけで素晴らしい代物を手にいれたのだった。普段から恵まれていないと稀にこういうことに遭遇するらしい。
「なんとまあ…私もわざとぶつかってみようかしら?」
アリスの冗談にいたって真面目な顔でシュトーレンがつっこんだ。
「持ってる金を落とすかもしれねーぞ。」
「その時は貴方がまた拾ってくれるんでしょ?」
シュトーレンはにっこり笑った。
「拾うだけに決まってンだろ!」
おかげでアリスもぶつかり屋などという馬鹿な行動に出ずにすんだ。
「でもほんとにいいんでしょうか…。」
実質タダで手にいれたのと同じで普通に良心のある人ならこれを使っていいのかと悩むところだ。エヴェリンはどっちかというと恐縮していた。
「貰ったものはありがたく使うべきだわ。」
「そーだそーだ!勿体ねーだろ!」
アリスとシュトーレンが催促をかける。拾ったのではない、貰ったもの。遠慮することはないと言いたいのだ。
「そうですね。しかしまあ…なんでこんな物を…人にあげちゃうなんて…。」
まだ踏み切りそうにない彼にアリスは例え話を持ち出した。
「たとえば、ハワイ旅行券が当たってもハワイに興味がなかったら嬉しくないじゃない。」
とてもわかりづらい例えに二人は頭に疑問符を浮かべる。
「ハワイ…?どういった所なんでしょうか…。」
「リョコウケンってなんだか健康によさそーな名前だな。」
後者は話すら噛み合ってなかった。アリスは諦める。でも今のところエヴェリンは、なんとか説き伏せられたようだ。

「さっきのは忘れてちょうだい。とにかく…でかしたわエリンさん。私、どっちにしろユーロしかも持ってないもの。」
「淘汰の国と通貨が違うんです…。」
深々とエヴェリンは溜め息をつく。隣国なのに不便なことこの上ない。

「えー間も無く夜行列車が四番乗り場に到着いたしますー…間も無く夜行列車が…」
駅内にアナウンスが流れる。
「この列車専用の切符だそうです。…あ!るほど。だから850なんだ。」
時計の針は15時を差していた。人が1つの方向へ流れ出す。
「え?一日またぐの!?大丈夫かしら、色々と…。」
アリスの心配をよそに、到着間近を知らせる鐘が鳴り響いた。

「アリス!これに乗るんなら急ごうぜ!」
シュトーレンと止まない鐘の音に急かされ、アリスは乗車することを決意する。
「そうね…これも無駄にしたくないし進むしかないもの。行き先は乗ってから決めましょう!」
渡された切符(これ)を握りしめ、一同は「気まぐれ夜行列車」と表記された看板を通りすぎて人混みに紛れながら長い階段を登った。







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