ガラスが大破しており粉々になった欠片が辺りに散っている。時計は元から動いていないようだが、中まで貫通しているので二度と針が動くことはないだろう。
「せ…正解だよ…な?」
シュトーレンは時計の方を凝視していた。その時だ。時計はおろか、巨木そのものが赤い閃光に包まれ一瞬にして姿を消した。
「わっ!?」
反射的に後ろへ仰け反る。すこし上げた視界に映ったのは何もない道のど真ん中に俯せで倒れているシフォンだった。
「シフォンさん!!」
二人の後に続き慌てて駆け寄る。アリスが体を上に向けてやると、意識を取り戻したのかゆっくりと瞼を開ける。一同が皆安堵の表情を浮かべた。

「…うっ…こ、こは…?」
仰視したらそこには主に瓜二つの顔が微笑んでいる。
「……女装した奴に見下ろされるとは…つまり、ここは…地獄か…。」
れっきとした女性であるアリスは胸元に置かれた彼の手を優しく包み込む。
「私にもわからないわ…。アリスよ。お久しぶりね。」
アリスがそう言った瞬間、シフォンは跳ね上がるように体を起こした。手を無理矢理にほどく。かなり動揺している。
「な、な…ッ、…何故だ!?なんで…アリス…君が「また」此処に…。いや…これは夢なんだ…ははは…あいつめ…!」
目を覚ましたや壊れた笑みで譫言を言い始めた。よほど疲れてるみたいだ。
「アリス。これは夢だ、だから痛くも痒くもない…だから頼む…僕をぶってくれ。」
ふざけてはなく至ってシフォンは本気だ。だが、さすがのアリスも躊躇わずにはいられない。
「早く!夢だと信じさせてくれ!」
「怖い!落ち着いて!」
困惑したアリスはふと他の二人に救いの眼差しを向けた。エヴェリンは頑なに拒否をする。一方シュトーレンは察し、彼の右肩にグーの手を落とした。
「………痛い。」
声が震える。肩も震える。夢ではなく現だという真実が心にも痛い。
「痛いだろう!?ほら見ろ!これが夢だって信じていたかったのに!!」
理不尽な怒りを後ろで攻撃を喰らわせた人物にぶつけた。

「…………。」
「…………。」
きょとんとしているシュトーレンがそこにいた。その時のシフォンといったら同じようにきょとんとした顔で現実を直視する。
「…ふふっ、僕としたことが…思った以上に疲れてるな。こいつは幻だ!幻覚を見ているぞ!…はは…。」
力ない笑い声を漏らす。疲れすぎて病んでいるのかもしれない。恐る恐る彼の体へと手を伸ばす。幻だと信じたいがためだ。正直(今の彼の頭のなかでは相手は幻なので)どこに触ってもよかったのだが、一番目につく長い耳にそっと触れた。

「…ん…ッ。」
「そんな馬鹿な!!」
耳が相当弱いのか、シュトーレンは体ごとびくんと大袈裟に反応する。シフォンはとんでもない罪悪感に駆られ、びっくりして手をのけた。
「僕はそんなつもりではないぞ…ん?君は…夢、幻でもない。何者だ?」
耳をおさえるシュトーレンの隣で一連のやり取りを傍観していたエヴェリンは無表情で目を斜め下へ逸らした。
「…空気です。」
返しとしてはシフォンの中では百点満点だった。名前も覚えているしここまで来れば疑う余地もないので何も言わなかったが。

「僕の頭は聞きたいことだらけだ。何から聞けば言いのかわからないぐらい沢山ある。…とりあえず…君達は…何故…ッ。」
話している途中シフォンは激しい目眩に襲われ、体が前へ傾く。







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