彼女の話の中でアリスは見つけた矛盾を突いた。
「…なんでお仕置きしといて私たちに解いてもらおうとするの?」
その問いにはルージュもノアールも困り気味に顔を横に振る。
「それはお答えすることができませんわ。」
「ご主人様は何考えてるかさっぱりわからないからねえ…。」
あの感じの性格なら仕方ないとなんとなくアリスも納得をした。

「おい、なんでもいいから早くこいつをどうにかする方法を教えろ!」
納得できないことばかりのシュトーレンがアリスとエヴェリンを押し退けて一歩前へ足を踏み出す。いてもたってもいられない様子で気のせいか焦りさえも感じる。

「お仲間のために熱くなる殿方…素敵ですわ♪」
ルージュが指を鳴らすとシュトーレンの足元に煙と軽い破裂音と共に現れたのは金に輝くひとつのナイフだった。
「………。」
拾い上げると太陽の光を反射させ眩しい光を放つ。
「この木の呪いを解くのに必要なものですわ。」
ナイフをまじまじと見ながら聞く。
「こいつであの絡まってるのを切るのか?」
「まさか!あの沢山の時計の中にあいつを封印してるのがあるのさ。それをそのナイフでぶっ壊すんだよ!」
ノアールは嘲笑気味にそう告げた。
「そ、そんなの無茶にもほどがあります…!」
「そうよ!そんなのわかるわけないじゃない!」
エヴェリンとアリスが訴える。
「お前達にわからないものを、私達がわかるはずないだろ。」
とノアールが言う。
「貴方達ならわかるものと、私達も信じておりますわ。」
とルージュが言う。全ては主からの挑戦状と見なした。

「そんな…。」
アリスが酷く落胆する。ヒントもない。手がかりもない。左右するのは運のみの難易度は最高値のゲーム。
「迷わず1つに決めたなら、投げても必ず届きますわ。」
とは言うものの、1つに決めなくてはいけないのだ。この沢山の、各々が違う時刻を指している時計からたった1つ。おそらくチャンスも一度だけ。なんということだろうか、ヒントが「貴方達ならわかる」、それだけだなんて。わかるはずがない!

「…俺、わかるかも。」
真顔でナイフをくるくると器用に回すシュトーレンに若干余裕が見えた。何歩か前へ進み、木から少し離れた所でぴたりと止まる。
「嘘でしょ?レンさん…もっと慎重になって!」
後ろから呼び止める声、聞こえてはいた。聞かなかった。メイド二人は黙って見守る。
「俺達だからこそわかるンだろ?なら余裕だぜ、こんなもん。」
まだアリスとエヴェリンは何か言いたげだった。果たして彼の自信はどこから出てくるのか。根拠は一体どこにあるのか。

「……みっけた!」
彼の目がとらえたのは、シフォンの足元の古びた時計。針は六時ちょうどを差していた。
「早くしないと、時計が動いてしまいますわよ。」
いつまでも迷ってはいられないみたいで、実質シュトーレンに迷いなどはなかった。
「何言ってンだ。動かすんだよ…。」

右の肩と足を後ろに引いて静かに構える。アリスも、エヴェリンも彼にすがる思いで手を合わせるなどして祈った。
「レンさん…!」
「動かしてやるんだ…俺がな!!!」
神経を一気に集中させ、力一杯投げたナイフは真っ直ぐ軌道に乗り、狙い通りの的めがけて勢いよく突き刺さった。

「「やったあああ!!」」
後ろの二人は喜びのあまり互いの肩を組み合いはしゃぎだした。だが気の抜けないシュトーレンはナイフの刺さった先を睨む。







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