それが合図かのように、突如謎の破裂音と共に真っ白な煙が濛々と舞い上がった。

「ひゃ…っ!」
アリスとエヴェリンは両腕で目を庇い、シュトーレンは耳を下に引っ張った。こだまもやがて消えると皆はそれぞれの防御を止め、そっと目と耳を開く。

「…………………。」
煙はそよ風に流され向こう側の景色が鮮明になる。道の両脇にはすまし顔のメイドが二人。
「いきなり何すンだよ!びっくりするじゃねーか!!」
いきり立つのは兎一匹。だが彼も煙が消えた先にあるものを目の当たりにすると途端にうるさい口は開いたまま動かなくなる。
「な、なにあれ…。」
「さ、さあ…。」
皆が皆、息を呑んだ。

言うならば、人が十数人手を取り輪を作ってやっと届くぐらいの幅と隣の針葉樹に負けないぐらい高い巨木が道いっぱいに立っていた。深い緑の葉が傘みたいに広がっていて影がこちらまで届く。

ただ、それだけなら「なにあれ」というほどのものではない。真っ赤な丸い木の実が所々にぶら下がっているがよく見たらかすかに光っている。
「不思議!光るリンゴだなんて!」
アリスの好奇心が疼く。
更に根に近い木の幹を隙間埋めるほどの時計が囲んで、麓にも立てて置く形の時計が不規則に並んでいる。いかにも異様な光景だ。
「…アリス!うかつに近づいちゃいけません!」
さっきの出来事もあってか一層エヴェリンの方は神経質になりつつある、が、アリスの好奇心は止まらない。
「見て!時計の針がみんなばらばらの所で止まってるわ!」
「あ、そうですね…あ、アリス!あれは…!」
思わず彼女のマフラーを引っぱって止める。「ぐぇっ。」と潰れた声が喉から出た。
「何するのよ!体が前へ進んでるのに、ちぎれちゃうじゃない!」
「すいません!…何がちぎれるんですか?」
夫婦漫才に似たやり取りを繰り広げている中、シュトーレンの視線はある一方に吸い寄せられていた。

「…シフォン…。」
木の幹のちょうど真ん中にあたるところをただ見つめている。エヴェリンが差していたのはそこだった。アリスもそちらに目を向けた。
「…まあ、なんということでしょう!」

中枢部分には、幾重にも蔓や茨が集中的に絡まっている。その中には、体を十字に木に縛り付けられているかなり見慣れた人物の姿があったのだ。
「一体、どういうことなの?」
ルージュが答えた。
「シフォン様は、悪気はないのでしょうが主が大事になさっている神器に触れてしまったのですわ。」
続いてノアールが答えた。内心呆れ顔をしている。
「さすがの主もお怒りになって、まあこうやって罰を食らったんだ。これがどんなものか知らないが、今のこいつは時を止められてる。死んだも同然だ。」
三人の表情が凍りついた。確かに、シフォンの表情といえば安らかに眠っているように見える。
「死んではいません。この呪いを解いたら彼は止められた寸前の状態で生き返りますわ。個人的には、このままにしてどこかへ飾りた…失礼。」
顔を伏せ咳払いをしてまたルージュは続けた。
「場所も取りますし、貴方達がここを訪れたのを知った主はきっと呪いを解いてくれるだろうと仰せられ、ここに参りましたの。」






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