シュトーレンはポケットの中を手探りするだけで手のひらには何も握られてなかった。一同が不安になる。
「あるよ、ちゃんと。」
「なら…!」
早速届け主が手を差し出すが渡そうとしない。
「お前また落としそーじゃん。俺が持っとく。」
事の発端はエヴェリンが鍵を落とした所から始まったのだ。でもいまいちこっちも信用ならない。
「なんだよ!その疑いのまなざし!俺が大丈夫だぞ!」
きっと「俺は大丈夫」と言いたかったのだろう。それはさておき、鍵を彼が拾わなかったらあの化け物も野放しになっていたに違いない。結果、誰のおかげで助かったのかわからなくなってきたが。
「…また落としても困るわね。エリンさん。彼に任せましょう。」
異存はなかった。
「はい…。」
誇らしげな笑顔で胸を張るシュトーレンにすかさず注意を促す。
「いいこと?必要な時以外、絶対にそれを出したらダメよ!」
そんな時など多分無いだろう。シュトーレンはうんうんと頷いた。バカはある意味飲み込みが早いみたいだ。

「こんなところで、いつまでも時間を潰すわけにはいかないわ…?」
アリスの視界が突然真っ黒になる。意識はある。顔の上に布のようなものが覆い被さっていた。
「あ、あのー…あげます。」
白い手編みのマフラーだった。かなり丁寧に細かく編んである。三月だと思われるほど暖かいのに何故だろう。首にまいてみると理由が分かった気がした。破れた襟元が見事に隠れたのだ。
「エリンさん…。」
「はい!?」
エヴェリンがやたら過剰に反応した。自分の中で話は終わってたようだ。

「…その…さっきはあんなこと言ってごめんなさい…。弱虫…って………。」
俯いてるせいか声が届きにくい。
「はあ…今更なんでお気になさらず…。」
いや、聞こえていた。しかし、その時のエヴェリンはアリスの言葉はおろかなんにも聞こえちゃいなかった。彼女に言われてやっと気づいたのだ。
「はっ…それよりアリス!さっき僕の名前…。」
と言ったものの、アリスの耳には届くことはなかった。彼女はシュトーレンの背中を追って走る。

「ま、待ってください!」
しかし、逆にそれでもよかったと思えるぐらいには彼の中では嬉しい事だったのかもしれない。慌てて二人を追いかけた。






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