奥の方から足音が聞こえる。二人は警戒したが、仲間が戻ってきたようだ。
「何があったんだ?」
葉っぱにまみれたシュトーレンと、後ろにもう一人誰かいるように思える。
「レンさんこそ…だ、大丈夫だったの?」
下敷きになったままのアリスが聞いた。
「降りるのに時間かかってたンだよ。飛び降りれる高さじゃねーからな。…んだよ、コイツ。」
シュトーレンが不機嫌そうに眉尻を上げ気絶しているレイチェルの脇腹を蹴った。横向きに転がりアリスは自由の身となる。開いた服を右手で寄せて隠しながら起き上がる。
「あ…その人が…あの…レイチェルさんで…。」
エヴェリンが呟くとたいそうシュトーレンは驚いた。
「マジかよ!年中はつじょーきか!」
彼が言える台詞でもなかった。

「あーきっと、暖かい気候に勝手に三月って体が勘違いしたんじゃない?無茶だけど。」
シュトーレンの後ろに並んでやってきた人物が前に出てレイチェルの耳を剣の鞘でつつく。赤いワンピースの上に鎧を着た細身の女の子で、鮮やかな紺色の長い髪をよくわからないくくりかたをしていた。頭部からは黒い猫の耳が生えている。蒼い瞳に可愛らしい顔つきだがどこか奇抜な印象だ。

「あなたは…?」
「降りたら遭遇したぞ。」
シュトーレンの答えはいまひとつ正確さに欠ける。女の子は笑顔で答えた。
「僕はパルフェ。通りすがりの美少女。まーあんま君達と会うことなんかないから名前は聞かないけど、ここで何があったのかな?」
背中を曲げて首を傾げる仕草がまたわざとらしい。自分を美少女という限り怪しさは満点だ。
「いきなり襲いかかって…その…エヴェリンさんに…た、助けてもらって…えっと。」
「はいはいおっけ〜。」
聞いたはずのパルフェが手を叩き話を終わらせる。
「ふぎゅ〜…ま、色々大変だった…ってことだね。君達はこれからどこへいくんだい?」
アリスが真っ直ぐ指を差す。
「街があるみたいだから、ひとまずそちらに向かおうと思います。」
「あーそう!こいつ君達の連れ?」
シュトーレンが迷わず首を横に振った。パルフェがレイチェルの体をひょいと担いだ。
「あの道曲がったら宿屋あるんだ。連れならほっとくけど、そうじゃないなら邪魔なだけでしょ。気ぃ失ってるし、優しい僕が宿屋へ捨てておくよ!」
自信満々に言い放つが普通、優しいのなら捨てておくなんて言わないだろうとアリスは心のなかでつっこんだ。
「任せていいのかしら…?」
不安げにアリスが訊ねる。
「大丈夫だろ!」
対し、シュトーレンは清々しそうに返す。
「…僕も…大丈夫だと思います。…それに、また同じようなことがあったら…。」
エヴェリンは放置したリュックを背負っておずおずと言う。「今度は俺が何とかするぞ!」とほざくシュトーレンは皆が(面倒なので)無視をした。
「目が覚めたら大体のことは説明しとくよ。あー…着くまでに覚めたら困るから急ごうかなぁ。」
立派な装備に武器も備えてるから太刀打ちは出来そうだが。
「可愛い僕だから絶対襲われちゃう!」
皆、ノーコメントだった。
「にゃはは、気にしないで…事実だから!じゃあねー!」
身丈の差の問題か、レイチェルの足が地面を引きずる。パルフェは呑気に鼻唄を歌って曲がり角へと消えた。

「…………………。」
まるで嵐が過ぎ去ったあとのような静けさが今度はやってきた。生温い風が三人を慰めるが如く優しく吹き抜ける。

「………冗談だから!て…言うと思ったわ。」
「大丈夫だと…思います…。」
アリスもエヴェリンもすっかり疲労困憊した様子だ。一方シュトーレンはぴんぴんしていた。
「可愛い僕だから…ってことはアリスも可愛いってことになるのか?」
「き、聞くかしらそういうこと…!嬉しくもないし!」
彼の言う可愛いから襲われる方程式はちっとも嬉しい答えなど出ない。耳をしょんぼりと下げられても困る。
「あっ!尻尾…!」
「あっ!鍵は!?」
エヴェリンの声にアリスの声は掻き消された。






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