エヴェリンは両手でしっかりと固い持ち手を握る。石も入っている砂利は想像以上に重い。それ以上に力が入らない。今からこれをどうするべきか考えたら体が言うことを聞いてくれない。行かなくてはいけないのに、怖くて行けない。立ち向かう相手がどれほど危険でどれほど強いかは何度か目にしたことがあるから余計にだ。

「…僕、喧嘩なんかしたことないのに!…もしあたりどころ悪くてし、し、死んだりしたらどうしよう!」
相手の心配までする始末だ。でも、弱い自分が頼れるのはこの武器しかないのだ。

「…でも…僕…。」
なにもしないままでも時間は過ぎる。あとほんのひとかけらの勇気が足りない。背中を押してほしい気分だった。
「痛いってば!いや、誰か…。」
気のせいではない、泣いている。
誰か?他に誰がいるだろうか。

背中を押されるより、引き寄せられるようにエヴェリンは木の影から出来るだけ気配を消しながらそっとレイチェルの後ろへと歩み寄る。速い鼓動と深い呼吸でさえ、長い耳はすぐに捉えそうだが今はそれどころではないみたいだ。
「……うぅ…神様…。」
両手にぐっと力を込める。まだ気付かない。

「レンさ…助け…っ。」
そのレンさんはどこにいるのやら。便りにされてないのも承知。そんなことよりエヴェリンの頭はもういっぱいいっぱいだった。ゆっくり足を開き、両手を挙げる。

「ごめんなさああああああぁぁぁ!!!」
そして目を閉じ掛け声と共に勢いよく鈍器をレイチェルの後頭部目掛けて降り下ろした!全身に響きそうなほどの衝撃に確かな手応えは感じる。しばらくレイチェルは動かない。
「………………?」
体越しに何が起きたか理解できないアリスは呆然としている。
「…僕…死んだわ…。」
息を切らし半ば疲れきった(というか諦めきった)顔で様子を見守る。すると、レイチェルは静かにアリスの上に重なるように倒れた。

「し、死んだー!!!!」
エヴェリンは鈍器を落とし、頭を抱えて膝から自分も崩れ落ちた。
「ごめんなさいごめんなさい!そんなつもりじゃなかったんです…ああ、僕も死んだ…社会的に死んだらもう肉体的にも死ぬしかない!死にます!!」
鈍器に巻いていた紐をほどき始める。まさか本気ではなかろうがエヴェリンはその紐で自らを少なくとも傷付けるつもりだ。
「待って!!」
倒れているレイチェルの肩からアリスの顔が覗く。
「アリス…僕は…貴方の友の命を奪いました…自らの命をもって罪を償います!罰は地獄で受けてきます!いやあああ!」
「だから待ってって言ってるでしょ!」
涙を流しながら気が狂ったように紐をほどくエヴェリンをアリスはなんとか止めた。

「死んではないわ…気を失ってるだけよ。」
その言葉にエヴェリンが脱力した。安心したのか、それでも他人に暴力を加えることに慣れてない彼にとってそれだけでも大打撃なのだ。
「は、はあ…そうですか…あは…あはは…。」
吹っ切れて笑いが込み上げるほど限界だった。







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